第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
第26回映画祭。最終日を飾るプログラム『十年/TEN YEARS』は聖蹟桜ヶ丘ヴィータホールのロビーに開場を待つ長蛇の列を持って始まりました。香港に『十年/TEN YEARS』と言う凄い映画があると言う情報が2016年の初頭から流れ、日本では大阪アジアン映画祭で1度だけ上映されました。乏しい情報の中で映画祭に相応しいと判断され、準備を始めましたが日本での配給が決まらない為、香港から素材を取り寄せ、翻訳、字幕焼き付けの作業から始まり、BDが完成したのが映画祭が始まる3日前でした。綱渡りで上映日まで駆け付けた作品。チケットはほぼ完売し、当日券の販売整理券を出すまでの反響となりました。
生々しい香港情勢を背景に作られているのでゲストには中国をフィールドワークにしているフリージャーナリスト福島香織さんを招き作品のバックグラウンドの解説をお願いしました。2015年より10年後の香港を舞台にした5人の若手監督による5つのオムニバス。上映が開始されると息を潜め、食い入るように画面を見つめる客席の熱気が伝わってきました。第四話ではクライマックスに涙を流す多くの観客が見えました。
上映後福島さんのトークが始まりました。一つ一つが独立した作品と理解していた私たちに福島さんは香港の政治、社会状況を解説した後、この作品は連続する流れに沿っていると話し始めました。「浮瓜」というタイトルで始まる中国本土による一国二制度への介入の始まりから、破壊されていく旧香港の街並み、そして言語。抵抗者としての香港人の焦りと絶望。庶民生活にまで及ぶ中国本土の浸蝕。未来を担う子供たちへの洗脳。香港の未来は絶望的なのか。しかし最終章でしたたかな香港人の生きざまを苦いユーモアを交えながら描いている。そしてエンディングの文字の変化にこそ、香港人のベクトルが示されている。福島さんのぶれないトークに観客の多くは頷いていました。
終了後のアンケートでは、上映に感謝のコメントがほとんどで、中には香港まで見に行くつもりだったと喜んでくれた方もいらっしゃいました。来場者は都内からみえられた方が多く、作品を選べば多摩地区だけでなく、都内からの集客も十分可能であるとの証明になったと思われます。ゲストの福島さんも観客の反応やその後のホワイエでの著作へのサイン会の手応えに大変満足しておられました。今後も情報のアンテナを張り、配給がつかなく、なかなか見られない良質な作品を多く上映していきたいと思いました。