第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
中国共産党に支配された(と思われる)自由が失われてしまった10年後(2025年)の架空の香港。5つの作品が語られる。テロのパフォーマンスを依頼された2人のチンピラの話。標本を作り失われる物の永久保存を続ける男女の狂気。香港の公用語広東語が北京語に取って代わられた香港の日常。雨傘革命から10年後に起きたある事件から振り返った疑似ドキュメント。農産物の香港産を締め出された食材雑貨店主の最後の香港産卵を売る1日の話。そして5つの物語のエンドマークは……。
2015年12月に上映されるや瞬く間に爆発的な関心を集め上映映画館が香港全域に拡大された本作品は、5人の若手監督による5つのオムニバスで、2015年より10年後の香港を描いています。1997年に返還された香港は大陸からの当然の影響のもと、さまざまな影が政治、文化、生活に落とされています。本作品ではその影響に戸惑う人たちをストレートに、幻想的に、そして醒めたユーモアを混ぜながら、絞り出すように描いています。また、作品は毎年4月に開催される香港のアカデミー賞と言われる「香港電影金像奨(香港フィルムアワード)」で最優秀作品賞に選ばれ香港映画人たちの強い支持を得ました。しかし当然ながら「環球時報」(中国政府機関紙、人民日報の国際版)や親中派のマスコミからは「絶望を煽る思想的に有害な映画」だと批判されました。今回、本映画祭での上映は国内では「大阪アジアン映画祭」に続くものですが、今後スクリーンで観る機会があるかは未定です。出口の見えない香港での政治、文化、社会を5人の若い映画人が真っ向から捉えた本作品を是非多くの人たちに観てもらいたいと思います。(竹)
奈良市出身。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社大阪本社に入社。1998年に上海・復旦大学に1年間、語学留学。2001年に香港支局長、02年春より08年秋まで中国総局特派員として北京に駐在。09年11月末に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始。テーマは「中国という国の解剖」。社会、文化、政治、経済など多角的な取材を通じて“近くて遠い隣の大国”との付き合い方を考える。日経ビジネスオンラインで「中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス」を連載中。月刊「WILL」誌上で「現代中国残酷物語」連載中。TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ」火曜ニュースクリップ隔週出演中。