第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM
本プログラムでは堀禎一監督特集として、堀監督の初の一般映画で代表作のひとつ『妄想少女オタク系』と新作『夏の娘たち〜ひめごと〜』を上映しました。上映後に行われた舞台挨拶やゲストトークを通して、堀監督作品の多様性や語りつくせない魅力に迫りました。
『夏の娘たち』上映後、出演者の西山真来さん、鎌田英幸さん、佐伯美波さん、川瀬陽太さんによる舞台挨拶が行なわれました。
出演の経緯についての質問に、鎌田さんは女優の速水今日子さんからの紹介だったとのこと。監督は会ったその日に出演依頼されたそうで、役のイメージにぴったりだったようです。西山さんは運動神経が決め手だったそうで、「別の映画で血みどろのなかを走りこむというシーンがあるんですけど、その時の止まり方がよかったようです。」と、自らそのシーンを再現。前作の『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』を観た監督から声をかけられたという佐伯さん。それ以前に堀監督の作品(『弁当屋の人妻』)が好きだと直接伝えたことも印象に残っていたのかも?と後から思ったそうです。監督と付き合いの長い川瀬さんは『妄想少女オタク系』にも出演されており、いつも「川瀬さん来てくれよ」という感じで声がかかるとのことでしたが、言葉の端々におふたりの信頼関係が感じられました。
撮影が行われた上田の旅館は出演者の方々にとっても思い出深い場所となったようで、温泉、美味しい食事、監督や出演者たちとの会話など、話題は尽きませんでした。川瀬さんに「映画と全く関係ないじゃないか!」と突っ込まれる場面も。佐伯さんは「ギャラが少ない分いい宿に泊めてあげたい」という監督の心遣いであったことも明かしました。
全国での公開の際に舞台挨拶で回られた西山さんに反応について伺うと、松本に行ったときにラストで「100万円の猫」という声が入っていることについて、お客様から「直美と麗奈の子どもがしゃべっているんじゃないか」という感想をいただき驚いたとのこと。音も含め緻密に作られているため、隠された様々なドラマもあるのではと思うようになったそうです。
また、伊藤洋司氏(中央大学教授)の著書『映画時評集成2004—2016』(読書人)において、『妄想少女オタク系』のことが書かれていることを西山さんが紹介され、同書のあとがきに『夏の娘たち』の上映を続けていくなかで感じたことに近い言葉があったということで朗読をしてくださいました。
「休むことも一度もなく、このように連載が続けられているのは、ひとえに素晴らしい映画がいつも公開されているからに他なりません。そんな優れた作品を一人でも多くの人に映画館で観ていただきたいという思いだけで、時評を書き続けています」
西山さんから「このように映画を観て言葉によって素晴らしい知覚が生まれるということを実感する、この半年の上映期間でした。こういった言葉をもらって、新しく作りだせるなとすごく感謝の気持ちになりました」という思いがあふれた言葉をいただきました。
時折脱線しつつも川瀬さんのナイスなフォローが入り、和やかで、作品と監督への思いが伝わる素敵な舞台挨拶でした。
続いてのトークでは親交のあった漫画家のやまだないとさん、脚本家の尾上史高さん、プロデューサーの井戸剛さんをお迎えしました。
冒頭、やまださんから本日のテーマは「堀禎一 未来映画祭」であるという宣言があり、トークが始まりました。やまださん曰く堀監督とは「茶飲み友達」だったということで、制作者側のおふたりに対して観客側の視点で進行役を引き受けてくださいました。先に客席からの質問を受けつけ、それを踏まえてトークが行なわれたため、会場全体が同じ熱を共有していました。
まず井戸さんから堀監督との出会いについて語られました。ある現場でロケドライバーとしてやってきて、話を聞いてみると映画監督ということで一緒にやろうよとなった、監督になってからも現場スタッフをどんどんやってしまうところがすごいというお話もありました。
尾上さんとの出会いは、尾上さんが「月刊シナリオ」誌の第2回「ピンク映画シナリオ募集」に応募したことがきっかけでした。応募作『草叢』はのちに堀監督によって映画化され、その後も脚本家として監督とやりとりを重ねていく様子を記憶をたどりながら語ってくださいました。
尾上さんが脚本として参加した堀監督作品は5本。原作がある2本を除いて、原案は尾上さんが書いていますが、堀監督との2作目にあたるピンク映画『笑い虫』(公開題 色情団地妻ダブル失神)は、堀監督が原案。決定稿まで進んでいた別の脚本にNGが出たため、急遽代案として監督が東京から(当時尾上さんが住んでいた)大阪に新幹線で向かう途中に考えたあらすじが『笑い虫』になったとのこと。ですが、尾上さんによれば、堀監督が自ら原案を書くことはイレギュラーなこと。というのも、堀監督は脚本家が用いる題材に関しては、特にこれが好き、あれが嫌いといったことは言わなかったということです。客席からも『夏の娘たち~ひめごと~』の題材、世界観などについて質問がありました。尾上さんは「堀さんは題材に関しては何でもいいんですよ。堀さんがずっと言っていたことは、それを使って僕が何をやるにしろ、ちゃんとフィクションにしてくれということだけ。フィクションになってはじめて現場に持って行ける。それから映画監督としての仕事があるっていうふうにとらえてたと思う」と堀監督の姿勢について振り返りました。
やまださんからは、当時注目されていた腐女子マーケットに向けて、彼女たちに受けてる俳優や原作で映画が作られていた状況に言及があり、その中で『妄想少女オタク系』と『憐 Ren』が出てきた時は、ここから新しい映画が生まれる希望を感じたと。そしてなぜ堀監督を起用したのかを井戸さんに問われました。
井戸さんは変わったものを作ってもらおうと思って堀監督に頼んだわけではなかったとのこと。ただ、ピンク映画と比べると監督がやりたいことをやれる純度は低いが、低いが故にその制約の中で化学反応で面白いものができないかと思っていたそうです。
やまださんが『妄想少女オタク系』で甲斐麻美さんが木口亜矢さんにメイクをしてもらっていて、鏡をのぞきこんだ甲斐さんがポロポロと泣き始めてしまう原作にはないシーンが好きだというと、監督は「いや原作に書いてあったよ」とすまして言う。ラスト、プールで甲斐さんが言う「私の中の男子な僕が君のこと好きみたいなんだ。男同士の交際キボンヌ」のシーンは漫画で読むと笑える落ちになっているけれど、映画では泣いてしまう、それは監督の演出なのかと聞くと、「それは甲斐さんがそういう言葉にしてくれたんだ」と答えられたそう。
尾上さんは「それらの流れは台本に書いているけれども、それを甲斐さんがああいうふうに言うというのを監督は現場で発見する。だから、そこでやっと完成する。だから監督が(やまださんとの対談の時に)言った「あれは甲斐さんが映画の言葉にしてくれた」というのが正直な意見だと思う」と語りました。
その後、堀監督の構想段階だった映画の話に。
やまださんは『魔法少女を忘れない』を撮る前に初めて監督と会ったそうで『憐 Ren』がとてもよかったと言っていたら、虹釜太郎さんが監督に伝えてくれて、監督と虹釜さんらとやまださんで何時間もただただ荒川を歩きこれからの映画の構想を話したとのこと。『妄想少女オタク系』と『憐 Ren』の主役だった馬場徹さんでもう一本ということで幽霊の話の構想があったそうです。
井戸さんは『魔法少女を忘れない』が終わったあとに考えてた企画がいくつかあり、幽霊の話は第一稿があったとのこと。そして監督と話していたのは成田良悟さんの『世界の中心、針山さん』という短編集。幻のSF作家と言われる広瀬正さんの『エロス』という作品はやりたいけれど、これはでかいからもう少しあとだなとなったそうです。この3つが堀禎一監督とやろうとしてた作品という貴重なお話も。
井戸さんから監督にまた一緒にやろうと言ったのが2017年7月3日ということで、映画を撮るということは心身疲弊するけれども、この先があるな、やっていて面白いなという思いもあったそうです。『憐 Ren』が終わった段階で、非常にカルトなファンが存在することを知ったと。そして監督の映画を絶賛する人はその絶賛するところが皆全然違うとのこと。語りたくなる映画ということで言えば、日本でいうと堀禎一と庵野秀明が最高峰とも。
やまださんは「堀監督とは会うといつも映画やろうと話していて、絶対パリで映画を撮ろうと言っていた。80年代初頭に『サム・サフィ』や『ギャルソン』とかフレンチ映画のブームをおこした巴里映画のマダムとお友達だったので、一緒に堀監督の映画をやりましょうって悪だくみを始めた。どんな映画やる?って聞いたら監督がフィルムで撮ると言いだして。話は結局やろうやろうのままになってるんですけど。」「去年私がしびれを切らして、もうiPhoneでもいいから撮ろうって。そしたら監督が、俺もそう思ってた、8ミリで撮るからって。やった!8ミリならもう待たない。絶対観れるんだ!って未来しかない感じで、すごい楽しみにしていた。」とわくわくする計画があったことを話してくださいました。
やまださんはポレポレ東中野での堀監督特集上映の最後に『Making of Spinning BOX 34DAYS』という馬場徹さんと中河内雅貴さんの若い俳優二人によるステージのメイキング作品が最終回に上映されることになった時なぜそれなのかわからなかったとのこと。監督の唯一の持ち込み作品だったそうです。でも『妄想少女オタク系』から『夏の娘たち〜ひめごと〜』、そして『天竜区』のドキュメンタリーを観ていると、誰も知らなかったあの作品は監督の次回作の何かにつながっているのではと思ったそうです。もっと広い意味での一般映画を撮れたのではという思いも語ってくださいました。
客席からの質問に絡めて最後は「運命」の話に。尾上さんによれば、『夏の娘たち~ひめごと~』の脚本を創る過程で、監督は運命という言葉ではなく、「集団的記憶」と言っていて、個人ではなくて集団的記憶みたいなものが人を動かしているということもあるんじゃないかということに行き着いたと。
尾上さん自身は近代の個人、何か心理にとらわれたり、目的があって思い詰めた人物を書くけれども、監督はそれを語りとして嫌がっていたとのこと。監督が入るとそうでない語り方が生まれるという。
井戸さんは、監督とはそれぞれが間合いを詰めた付き合い方をしてきたから皆色んなことをしゃべりたくなる、これからも堀監督についての話は様々なところで続いていくだろうと話されました。
やまださん、尾上さん、井戸さんから語られる堀監督の映画制作における独特な立ち位置と視線、温めていた企画についても話が広がり、会場の観客もじっくりと聞き入るトークになりました。いくら語り合っても語りつくせない魅力が堀監督作品にはあるということが印象に残りました。
これからも堀禎一監督の多様な作品に新たな観客たちが出会うことを願っております。
2017年7月18日、堀禎一監督が急逝されました。心よりご冥福をお祈りいたします。