第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM
ごく普通の男子高校生・阿部隆弘(中山)は同級生の浅井留美(甲斐)に恋をした。ところが、浅井はオタクな腐女子。BLに萌え、阿部と彼の親友・千葉俊祐(馬場)がデキているという妄想を抱いている始末。さらに、隠れ腐女子の腹黒美少女・松井曜子(木口)の横ヤリまであり、はたして阿部の想いは浅井に届くのか?
約10年前の作品だが、久しぶりに観て感じたのはオタク女子的な感覚というのはすっかり一般女子の間にも浸透したなということ。好きな男子たちが仲良くしているのを観るのが幸せという女性は結構多いのではないだろうか。
この映画では、妄想少女も、アイドル的男子も、ゲイの先輩も、隠れオタクギャルも、(仲良くなるまでに一悶着あるものの)同じ空間で楽しくたわむれている。一種のユートピア。しかし、のどかな世界だけを描いているわけではない。皆が集う美術部の教室のなかは楽園でも、その外には別の世界が広がっていることもちゃんとわかっている。だから、教室を出た少年少女たちは少し不安定だ。
後半、夏休みが始まると彼らの所在なさに比例して物語も漂い始める。浮かれたり、退屈したり、考え込んだりしながら、どこに向かっているかわからない時間を過ごすという贅沢は大人になるとなかなか味わえないけれど、彼らを見ているだけで幸福でちょっと切ない気分になる。(黒)
山あいの小さな町に直美(西山)は養父の最期を看取りに戻って来た。義理の弟・裕之(鎌田)との再会は二人の間に秘密の過去を蘇らせる。彼らは姉と弟の関係を越えて男女の仲に至っていた。裕之への愛を再燃させた直美だったが、やはりこの町に戻って来た幼なじみの義雄(松浦)を前に思いは乱れる……。長く止まっていた時間が動き出し、人間関係が変わり始める。それは自ら運命を選択する女たちのひと夏の物語。
本作は信州の緑鮮やかな夏を舞台に、家同士のつながりが濃い地域の人間模様を描き、田舎の今は亡き祖父母を思い出した。播州の祖父母も人里離れた山奥で暮らし、親類縁者や地域の家族関係は頭に入っていた。男女の込み入った事情も周知のことで、それらをひっくるめたおおらかさは何だろうと子どもながらに戸惑った感覚も蘇る。
30歳をすぎて故郷に戻った直美、妹の亜季、飲み屋で働く麗奈(Tバックの鮮やかさよ)、旅館を営む直美の母、直美の義母など各年代の女のたくましさやしなやかさとともに、女たちの手のひらで転がされているような男たちの女々しさや憎めなさに心情を察してしまう。劇中では、人の生死や絡み合う血縁、まぐわう男女と心変わり、葬式と結婚式という混沌や汗がだくだくと流れていく。直美は義雄のことを「変な人」とつぶやいたが、劇中の音やカメラも特異な印象である。旅館の客間、三味線で「春雨」を弾く義雄と歌う直美。厨房で料理をする女将の母も聞こえてきた歌にあわせ、遠くで蝉の声。子どもに戻ったかのように川遊びする男女6人の声をかき消す川の音の存在感。
これからも堀監督の多様な作品に新たな観客たちが出会うことを願って……(内)
1965年生まれ、佐賀県唐津市出身。漫画家。90年「週刊ヤングマガジン」にて「キッス」で連載デビュー。代表作に「東京座」「コーデュロイ」「西荻夫婦」、映画化もされた「フレンチ・ドレッシング」、「ラマン」、「王様とボク」、映画感想集「ハルヒマヒネマ」、テレビドラマ「私立探偵濱マイク」(10話脚本)。堀禎一監督とは2015年「ユリイカ特集=マンガ実写映画の世界」誌上で対談、『夏の娘たち~ひめごと~』のポスターを手掛けた。
映画音楽に『妄想少女オタク系』『憐 REN』『ストロベリーショートケイクス』ほか。『夏の娘たち ~ひめごと~』では音楽/音響/整音を手がけた。著書に「カレー野獣館」。
1970年生まれ、奈良県出身。「月刊シナリオ」誌の第2回「ピンク映画シナリオ募集」で『草叢』が準入選。05年、映画化される(公開題『不倫団地かなしいイロやねん』監督:堀禎一)。ほか、脚本として参加した堀禎一監督作品として、07年『笑い虫』(公開題『色情団地妻 ダブル失神』)、『妄想少女オタク系』、08年『憐Ren』、17年『夏の娘たち ~ひめごと~』がある。
1980年代に森重樹一(ZIGGY)、ROLLY(すかんち)といった当時無名の天才に出会い、インディーズで自ら手がけるも、メジャーステップアップ時には関わらず、映像の世界へ転身。98年よりオタク専門制作会社OTC創立(その後ベドラムに改名)。日本初のオタク情報バラエティ番組制作、フラッシュRPG開発、などジャンル無差別に独自の映像を制作、2005年からは堀禎一監督との青春映画を制作し、濃密な時を過ごす。現在フランスで日本コンテンツの普及にも携わる。