第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM
住む家を失った6歳のムーニー(B・K・プリンス)とシングルマザーのヘイリー(B・ヴィネイト)は、フロリダの安モーテルでその日暮らしの生活を送っていた。貧困という厳しい現実の一方で、モーテルの子どもたちと冒険心に満ちた日々を過ごしていたムーニー。しかし、そんな彼女が軽い気持ちで起こしたある事件が、夢のような日々に重い影を落としていくのだった。
広がる空の青。ぼうぼうと生える草の緑。世界一のテーマパークの周縁に建てられた安モーテルのピンクや紫。鮮やかな色のなかで、現代アメリカの貧困が描かれている。サブプライムローン問題が根底にあるというが、この映画にはストーリーらしいストーリーはない。誰もが共感するストーリー(型のある大きな物語)ではなく、個々が語る小さな物語であるナラティブが、少女と母親、そしてそれを見守るモーテルの管理人という三者の視点で描かれている。
少女ムーニーの無邪気でえげつないいたずらの数々がまず目を引くが、さらに出色なのはシングルマザーのヘンリーの存在感である。演じるブリア・ヴィネイトは、インスタグラムでマリファナを吸いながら下着で踊っていた写真で数千人のフォロワーを集め、監督にスカウトされた。その演技は自分をむき出しにしているようで熱過ぎず、冷め過ぎない母の愛情を極めて自然に表現している。(理)
1983年、夏。北イタリアのどこかで17歳のエリオ(T・シャラメ)は24歳のオリヴァー(A・ハマー)は出会う。エリオの父の研究を手伝いに来ていたオリヴァーはとても知的で自信に満ち溢れていた。まばゆい夏の光のなかで、2人は惹かれあったり反発しあったりしながらも激しい恋に落ちてゆく。永遠に続くと思われるような日々であったが、夏の終わりとともに、オリヴァーが去る日が近づいてくる。
北イタリアの美しい自然のなかで、川で泳いだり、読書をしたり、曲を作ったりなどというなんとも優雅で文化的な休暇を過ごしてみたいものである。今年の夏、あの場所を探したが、やはり私の周りでは見つからず、1人虚しく桃を貪っていた。
2人の恋愛は今で言うLGBTの部類に入るのだが、初恋という誰もが経験した思いを映画のなかで彼らと共有することができる、普遍的な恋愛映画である。「痛みを葬るな」と言ったエリオの父の言葉は、忘れたかった数々の記憶に居場所を与えてくれた。
別れの前の旅行での幸せの絶頂にいる2人を見ていると、この後に来る悲しみの大きさがわかってしまい、涙が止まらなくなる。どうか、このまま時が止まりますようにと祈ってしまった。
この作品が初主演映画であり、ハリウッドが今もっとも期待する俳優となったティモシー・シャラメ。きらめく瞳の奥にどんな未来を見据えているのか、彼の今後の活躍にも注目していきたい。(舩)