第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM
双子の舞子(関口)と佐和子(明神)。しかし二人はまったく似ていなかった。舞子は皆から可愛いとちやほやされ、佐和子は自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。佐和子は、舞子に憧れていた。どうしたら舞子のように可愛くて、皆から愛される人間になれるだろうか。そんなある日、ひょんなことから二人は入れ替わってしまう。その日を境に二人の生活が一変する。
『転校生』(1981年)はじめ心と体が入れ代わる作品はこれまでも多く描かれてきたが、容姿の違いによる思春期・少女期の性格形成・コンプレックスについて踏み込んだ作品はほかになかったかもしれない。『少女邂逅』にしてもある時期の少女にしか感じえない心の痛みを描きながら、それが性別・年代問わず幅広い世代にスクリーンからひしひしと伝わり、シンパシーを感じさせるのは枝監督ならではのマジックだ。正確に言えば、性別や世代が異なる者にとってその感受性は未知なる世界であるのに、それを自分のことのように思わせてしまう魔力がある。
対照的な双子を演じる関口真愛、明神佐和子が、アイデンティティを確立できない不安定さを繊細かつ鮮明に演じていて素晴らしい。両親の思慮無い言葉や大勢の人々が行きかう街中で独り取り残される姿がグサグサと心に刺さる。(淳)
『少女邂逅』の世界とまた違った、17歳の青春を描いた枝監督のオリジナルストーリー作品。枝監督は“世界一美しい飲み物”クリームソーダを東京中追い求めて撮ったそうです。
いじめをきっかけに声が出なくなったミユリ(保紫)は山の中で拾った蚕に紬(ツムギ)と名付け、大切に飼っていた。ある時、いじめられているところを一人の少女に助けられる。翌日その少女がミユリのクラスに転校生としてやってくる。その少女は紬(モトーラ)と名乗り、二人は次第に仲良くなっていく。
この映画に出てくる少女たちはみんなどこか儚く、不確かで、いつかプツッと消えてしまいそうなあやうい雰囲気を醸し出していた。そしてその空気はどこか心地よく、懐かしくも感じられた。
高校生の時どんな気持ちで過ごしていたのか、この映画を観るまですっかり忘れていた。あの頃が無くなりはしないと分かっていながらも、映画のなかに引きずり込まれて久しぶりに体感した少女たちのあやうさに、もうあの時間は戻ってこないんだな、と少し切なくなった。画面の中の彼女たちは今もギリギリのところを生きていて、10代の多感な時期を大きくも小さくもせず、まっすぐに映像としてとらえられている。それは監督の持つ熱量と彼女たちの熱量がうまく響きあったからなのだろう。
ぜひ映画を観た後はミユリと紬の真似をして喫茶店でクリームソーダを飲んでみてください。そしてじっくり映画の余韻に浸ってみてください。(北)
1994年生まれ、群馬県出身。監督作『さよならスピカ』(2013年)が第26回早稲田映画まつり観客賞、審査員特別賞を受賞。翌年の同映画祭でも『美しく腐る』(14年)が観客賞に選ばれる。『オーバー・フェンス』(16年)の特典映像制作やMV監督を務める一方、「ViVi」「装苑」などでのスチル撮影など活動は多岐にわたる。『少女邂逅』はMOOSIC LAB 2017で観客賞受賞後、18年劇場公開し、半年に渡るロングランヒットを記録。香港国際映画祭や上海国際映画祭などでも上映された。来年公開の女性監督オムニバス映画『21世紀の女の子』の1篇を監督している。
1995年生まれ、千葉県出身。講談社主催の「新しい時代にふさわしいまだ見たことのない女の子」を探すオーディション・ミスiD2016にてグランプリを受賞。JUJU Music Video「東京」(監督:萩原健太郎)に主演。650万回再生を突破し注目を集める。近年の出演作はドラマ「目玉焼きの黄身いつつぶす?」(17年)、「ザ・ブラックカンパニー」(18年)、「獣になれない私たち」(3話、18年)。