第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
アルゼンチンタンゴの革命者、アストル・ピアソラ、ブラジルのボサノバ音楽の創始者ジョアン・ジルベルト。この二人の巨匠が作り出した音楽は、南米のみならず、世界中にその音楽を愛好する人々がいます。その魅力の最高の語り部として、音楽プロデューサーの中原仁氏をお迎えしてのトークが行われました。当日は、中原氏が保有する貴重な映像と温かな語りにより南米音楽を楽しむ心地よい空間となりました。
まず最初に、ピアソラの生い立ちから語られました。その後、彼の音楽に深い影響を与えた女性作曲家のナディア・ブーランジェとの出会いについて。当時、タンゴの作曲家であることを秘密にしていたピアソラは、彼女に、タンゴの作曲にこそ自分のオリジナリティがあり、その道を究めることを勧められたそうです。「伝統的なタンゴの破壊者」とまで言われることになったピアソラの革新的な「聴くためタンゴ」の原点がここにあったと言えます。彼の作品は、タンゴのカテゴリーを超えて、クラシック音楽の作品として評価を受けるようになりました。チェロ奏者のヨーヨー・マがピアソラのアルバムを出すなど支持されるようになったとのことです。来日公演にも、足を運んだ中原氏が、最初にピアソラに興味を持つきっかけとなった代表曲の『リベルタンゴ』の音源を聴かせてもらいました。
続いて、中原氏が字幕監修をした『ジョアン・ジルベルトを探して』について。中原氏によれば、ジョアンが作った「ボサノバ」は、その音楽のスタイルのベースにあるのは、実はブラジル音楽の「サンバ」だそうです。「サンバ」のリズムをギターで弾き、洗練されたハーモニーをのせて、ささやくようなボーカルスタイルで歌ったところに「ボサノバ」の新しさがあったといえるとのことです。「ボサノバ」が世界中に広がった一つの要素として、当時の新進気鋭の作曲家・編曲家アントニオ・カルロス・ジョビン、「イパネマの娘」の作詞家ヴィニシウス・チ・モライス、「ゲッツ/ジルベルト」のジャズミュージシャン、スタン・ゲッツとの出会いが大きかったとのこと。
そして、最後には、中原氏が所有する貴重なジョアンとジョビンのライブ映像を披露していただきました。名曲「イパネマの娘」が流れると、会場にも親密な空気に満たされました。