第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
実際に【2年間】交際した恋人が【2年分】の記憶を失くした。僕は、カメラを回した。
これは本作品のキャッチコピーです。『万歳!ここは愛の道』で、この“恋人”とは福田芽衣さん、“僕”とは石井達也監督ご本人。手持ちカメラによる衝撃的な内容だけでなくもちろんリアルなお二人の生活の細部まで曝け出したセルフドキュメンタリーとして撮られています。またこの作品に登場する俳優の大下ヒロトさんも女優の根矢涼香さんも全て実名で映しだされています。
予備知識になりますが、ここにメインで登場するお二人は共に自主映画の監督で、石井達也監督は『すばらしき世界』で第19回TAMA NEW WAVEある視点上映。福田芽衣さんは『チョンティチャ』で第19回TAMA NEW WAVE特別賞受賞監督。また根矢涼香さんは『ウルフなシッシー』で第18回TAMA NEW WAVEベスト女優賞を受賞しています。
このプログラムの企画理由は、単にTAMA映画祭と縁(ゆかり)あるスタッフ、キャストによる劇場公開長編作品だからではなく、福田芽衣さんの記憶を失くした日が、第19回TAMA NEW WAVEコンペティションで彼女が表彰を受けた数日後であるという事実。すなわちお二人に、そして衝撃的なこの物語のプロローグにTAMA映画祭も何らかの関与をしていると感じたからです。
平日の日中にもかかわらず大勢のお客様にご覧いただいた作品上映後のトークは、石井達也監督、公開当初から本作に注目し各所にコメントを掲載していた映画評論家松崎健夫さん、出演女優の根矢涼香さん、主演の福田芽衣さん4名をお迎えしました。福田芽衣さんは、トークゲスト呼び込み時の突然の発表でサプライズ登壇となったため、会場は多少のざわめきからのトークスタートとなりました。また作品の中で強烈な私生活を見せつけられた後だけに石井達也監督だけならまだしも、福田さんの登場は会場に不思議な空気感を与える中でしたが、松崎さんの軽妙なトーク回しにより、和やかに進められました。
テーマはセルフドキュメンタリー論。誰もが簡単にムービーカメラを片手に、その日常や生活を事細かに撮り収めることができる今だからこそ、何を撮るのか? なぜ撮るのか? そして作品にするのか?石井監督は、本来は撮る側だけでありながら、彼女である福田さんと自らを撮りまくった結果(福田さんも石井さんを撮っている)、収録された莫大な量の映像を監督として客観視すること。福田さんも本来は監督でありながらこの作品では撮られる立場であり、しかも演技ではない素の自分が映像として残っていること。根矢さんはお芝居を撮られる側でありながらこの作品に出演したことのメリットや、シナリオ・台詞があって役を演じる劇映画とドキュメンタリーとのギャップ。また現在配信されているソーシャルフィルム『根矢涼香、監督になる。』で監督業を意識したこと、などなど。撮る側の立場、撮られる側の立場。この作品ではそれらが混在する中で、様々なお話を語っていただきました。
Q&Aでは、
Q:収録したトータル尺数は?
A:具体的な総時間数は分からないがと首をひねる石井監督に、「最初の荒編集だけで8時間以上だったので完尺(86分)にするのが大変だったよね」と福田さん。「でも監督は何でも撮るわけではなく意志やこだわりがないと撮らない」と話す福田さんに、「撮るものには全て魂がこもっています」と石井監督。
Q:本編内の劇映画の撮影シーンは元々あったのか?
A:元々『万歳!ここは愛の道』という劇映画を撮る予定で始まったのだが、セルフドキュメンタリーを撮って行く上でこの作品のタイトルこそが『万歳!ここは愛の道』に相応しいと思いこのタイトルに決定したと石井監督。
Q:今後は劇映画を撮るのか? ドキュメンタリーを撮るのか?
A:自分が撮りたいと思ったものを撮るだけで、劇映画やドキュメンタリーなどジャンルへのこだわりはないと石井監督。
他にも本作品やセルフドキュメンタリーに関する深いお話を聞く大変有意義な機会となりました。
TAMA NEW WAVEも今年で20回目を迎えましたが、今後TAMA映画祭のプログラム企画でも才能ある若手監督の良質な作品に注目し、まだ陽の目を見ない作品でもいち早く輩出する機会にしていきたいと思います。ご登壇いただきましたゲストの皆様、ご来場いただきましたお客様、ありがとうごいました。