第31回映画祭TAMA CINEMA FORUM
1990年代なかば、アイルランドの保守的な田舎町。高校生のエディは同性愛者と気がつき始めているものの、認めたくないため誰にも伝えられず悩み、父の後を継いで軍隊に入ることで普通の生活をすることを望んでいる。アンバーは田舎町を早く出て、自由な大都会ロンドンに引っ越すことを夢見ている。二人の共通点は同性愛者だということ。孤立していたエディとアンバーが出逢い、周囲にセクシュアリティを悟られないようカップルを演じることで仲を深めていくが、やがて彼らの“理想的”な関係は崩れ始め……。
主演のフィオン・オシェイは話題のドラマ『ふつうの人々』(STARZPLAYで配信中)やNetflixで観られる『Handsome Devil(ぼくたちのチーム)』での繊細な演技で注目されているアイルランド出身の俳優である。本作では、アンバー役のローラ・ペティクルーとともにアイデンティティーを隠し、生きることにもがく10代の男女というデリケートで重い役どころを抜群のコンビネーションでコミカルに演じています。
他人にはなかなか本心を語れない内に秘めた思いを共有した二人だからこその性別を超えた特別な関係性が素晴らしい。同性愛への偏見から差別してしまう学校の同級生(自分たちはイケてると思っているが垢抜けずダサいのもどこか憎めない)やユーモラスなエディの弟にも注目です。
自分らしさを失わず、一歩前に踏み出す勇気をもらえる爽やかな作品です。ブリットポップ全盛の95年が舞台の作品なので、UKカルチャーが好きな方も必見。(飯絢)
東京都出身。コラムニスト。著書に「ヤング・アダルトU.S.A」(DU BOOKS、長谷川町蔵共著、2015年)、「映画の感傷」(DU BOOKS、19年)、「ランジェリー・イン・シネマ」(Blueprint、20年)。翻訳書にサリー・ルーニー「カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ」(早川書房、21年)など。
主に映画執筆業。「リアルサウンド」、「キネマ旬報」、「映画芸術」、「ユリイカ、劇場用パンフレットほか多数。直近では、「アニエス・ヴァルダ 愛と記憶のシネアスト(ドキュメンタリー叢書)」(neoneo編集室、2021年)、「ジョージ・A・ロメロの世界──映画史を変えたゾンビという発明」(Pヴァイン、21年)へ寄稿。共著に「「百合映画」完全ガイド」(星海社新書、20年)がある。
1995年生まれ、岡山県出身。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。「電影と少年CQ」のメンバーとしてライブ活動を続けながら、セルフプロデュースによるソロ活動「DIVA Project」を始動。「キネマ旬報」「ユリイカ」での執筆や『21世紀の女の子』『ひらいて』への出演など、活動は多岐に渡る。2021年12月には、水野しずと共に編集長を務める雑誌「imaginary」を創刊予定。