第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM

プログラムレポート

【D-9】第14回TAMA映画賞三冠受賞 『さがす』

11/20[日] ベルブホール
  • 13:00-15:03
    さがす
  • 15:10-15:50
    トーク
    ゲスト:山野晃プロデューサー、片山慎三監督
    聞き手:松崎健夫氏(映画評論家)

第14回TAMA映画賞において最優秀新進監督賞(片山慎三監督)・最優秀男優賞(佐藤二朗氏)・最優秀新進女優賞(伊東蒼氏)の三冠に輝いた『さがす』の上映とトークを行いました。トークのゲストは片山慎三監督と山野晃プロデューサー、聞き手は映画評論家の松崎健夫氏が務めました。

トーク冒頭、直前に会場で作品鑑賞された方々も気になったと思われる「西多摩駅」について松崎さんが切り出します。片山監督は「事件が多摩で起きたという設定に深い意味はないですけれど、都心から少し離れたところで起きるような事件なんだろうと想像して。実際に実世界で起きる事件を調べてみると、猟奇的な事件は都心から少し離れた場所で起きる傾向があったので、そういうところから『多摩』を使わせていただいて、本当にすいません」と苦い顔で説明し、会場内に静かな笑いが起きました。

そして話題は『さがす』を製作するきっかけに。大阪出身の片山監督は「子どもの頃に、父が通勤で利用していた阪急電車内で逃亡中だった殺人犯を見かけたと。嘘だと思っていたが、捕まった犯人の足取りをたどると実際にその電車に乗っていて、そういうこともあるもんなんだなと」と作品の着想について語りました。山野さんは片山監督の前作『岬の兄妹』を公開前に試写で観たことがきっかけだったとのことで、「(『岬の兄妹』は)自主映画とは思えない高いクオリティで度肝を抜かれ、いきなりTwitterでメッセージを送って片山監督と会った」と振り返りました。こうして、片山監督の『さがす』の企画が走り出しました。

キャスティングについて、片山監督は「佐藤二朗さんは20歳くらいのときに制作進行として仕事をしたときに出演されていて。フランクに声をかけてくれて『面白い人だなぁ』と。それで、是非ともデビュー作はご一緒したいと」。これに関連して、松崎さんは、佐藤さんが片山監督のことを「面白い奴だから覚えていた」と言っていたことを紹介。山野さんも「大阪の下町にいるリアリティをもたらすような人として、佐藤さんはすごくいいと。伊東蒼さんについても、女子中学生でこの難しい役を演じられる方はいるのかと話をしていて、知り合いを通じて、まずはお会いしようと」と、経緯を語りました。

松崎さんは「伊東さんのネイティブの関西弁がすばらしい」としつつ、「過去出演作の『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督や『空白』の𠮷田恵輔監督が口を揃えて伊東さんのことを『天才だ』と。(『さがす』で共演した)佐藤さんに至っては『化け物級だ』と。それは、同じ年齢だったとして、あのように役を解釈できるかということだそうで」と話しました。片山監督は「(伊東さんは)何度テイクを重ねても嫌な顔せず付き合ってくれて、その都度、面白がってやってくれていたのが監督としては嬉しく、信頼できると思った」とコメントしました。

大阪での撮影について、片山監督は「今回は街の感じが大事だと思って、西成という特色のある場所を舞台として選び、なるべく現地で撮って、エキストラなどで現地の人たちに出てもらって。割と大阪ならではの物語でもあると思ったので、その必要性を感じた」とのこと。山野さんも「製作費が潤沢にあった作品ではなかったので工夫した。撮影の許可を得ていくのも大変で、粘り強く交渉して。出来上がった作品を観て、撮った場所の空気が豊かに出ていたので、大阪で撮ってよかったと感じた」と語りました。

「今回は劇場デビュー作ということで、できるだけ自分の色を出せるオリジナル脚本でやりたいと思っていた。原作ものにも挑戦したいという思いはあるが、(オリジナルは)未知の物語を初めて観せる強みがあると思う。どういう結末になるのか観るまでわからないという状況を映画界がつくらないと、マンガとかアニメのような広がりを(映画は)もてないのではないか」という片山監督の熱い言葉が、これから生まれる作品への期待感として会場内に大きく膨らんだように感じました。

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