第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
本プログラムでは、『戦争と女の顔』の上映後に花束書房の伊藤春奈さん、文筆家の水上文さんをお招きしお話を伺いました。ゲストのおふたりには映画の原案「戦争は女の顔をしていない」と比較して、映画ではどのように戦後の女性たちが描かれていたかといった考察や感想などをお話いただきました。
おふたりとも元従軍女性たちの傷つきを描くだけでなく、男性たちも心身ともに傷を負っていることを描いていることに着目され、戦後の物語に描かれることの多かった英雄的な人物が登場しないことにも言及されました。伊藤さんは登場人物のステパンの描かれ方やセリフに注目され、戦争から帰ってきた傷ついた男性が「もう戦わない」「戦争のせいだ」という言葉を発したのは、監督の現プーチン政権に対する批判的な意図もあったのではないかとお話いただきました。
水上さんは原案が書かれた当時では、実際にレズビアンの戦争体験者がいたとしても語ることや書くことができなかった背景があるが、映画では原案に登場しないレズビアンが描かれたことは、語られなかったものを掬いとる試みとして大事なものだとされました。
原案ではたびたび男性が女性の戦争体験の語りを矯正する場面が登場しますが、映画でも元従軍女性としての語りが歪められる場面があることについてもお話されました。マーシャがサーシャの家族と対面する場面で、マーシャはサーシャの母に望まれるような語りをしている可能性があり、戦争に行っていない女性から元従軍女性へ偏見の目があること、そして本当ではないことを語らざるを得ない場面があることを象徴的に示す場面だとお話いただきまた。
最後に水上さんから、この映画は戦争で死ななくても、戦争で負った傷がその後もいかに人を傷つけ続けうるのかということを厳しく描いているとお話いただき、伊藤さんの「ソ連は戦争には勝利した”戦勝国”だけれども戦争は行った時点で戦勝というものはない。”戦勝国”という言葉自体が嘘くさい、絵空事みたいな印象を強く持ってこの映画を観ました」という言葉でトークは締めくくられました。
原案以外にも、時代背景やロシアのウクライナ侵攻についても交えてお話いただき、おふたりの幅広い知識と考察によって、より一層この映画のすばらしさと戦争の悲しさを痛感しました。ご来場いただいた皆様、伊藤春奈さん、水上文さん本当にありがとうございました。