第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
ここ数年映画祭の上映プログラムを振り返ると、2018年『ニッポン国vs泉南石綿村』(原一男監督)、2019年『福島の声を聴く』(土井敏邦監督)、2020年『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督)、2021年『東京クルド』(日向史有監督)。これらを企画した実行委員は全て違うのですが、こうしてラインアップしてみると、その年を代表するドキュメンタリー作品であり、TAMA映画賞ドキュメンタリー部門作品賞と言っても過言ではないということに気づくと同時に、本年度の『教育と愛国』はまさにそれにふさわしい作品だと思いました。
さて、本プログラムでは作品上映後、斉加尚代監督と武蔵野美術大学教授の志田陽子氏に登壇いただき、本作について深掘りしていただきました。
冒頭放映した志田教授作成の動画の楽曲「夢の話」(作詞・作曲・歌:志田陽子)の印象的な歌詞「♪ごめんね」は、今多くの現場の教員が子どもの夢を吸い上げたい、授業を生き生きとしたものにしたいと思いながらも、教育指導要領に縛られていて、子どもたちにごめんねと思いながら授業をしているという現実を表したもの。これは、斉加監督が本作の製作動機である教育と学問の現場が政治圧力や介入にさらされて私たちの望まない方向に行くのではないかという危機感と呼応しており、それを裏付けるようなエピソード、学校の先生は、学習指導要領に則って、政治的公平性中立性を保ちなさいと言われて続けた挙げ句、若い先生は投票に行っていいのかとベテラン教師に聞いてくる現実を披露。
志田教授は、憲法は国が人権を守る仕事をするようにし、その発展は民主主義の中で行うのがありうべき姿のはずが、今本来憲法が目指したものとは逆のことが起きていることを本作は顕にしていると指摘。斉加監督は1990年代の職員室は教師たちがわいわい議論していて子どもとの交流もさかんだったが、2010年以降の職員室は静まり返っており先生が意見を言わなくなった状況に言及。志田教授は、議論ができない不自由な社会が学校を起点にして染み出していくのは悲しいことと言いつつ、萎縮しやすい日本社会、自由とはいいながら忖度ばかりの社会において、本作が潮目を変える役割を果たしたと評価。斉加監督も全国各地での上映会を通じてこのタイプの映画が待望されていたこと、そして潮目を変えるパワーを持っているのはお客さまということを実感。
最後に高校3年生の感想を披露。「歴史を学ぶ歴史が歪められているとしたら悔しい。戦争の被害だけでなく加害も学ばなければならない。日本人として誇りを持てる教育ではなく、たったひとりのがけがえのない自分として自信を持てる教育であってほしい。それは大人から押し付けられるものではなく自分で大事だと思うことを見つけていきたい」斉加監督はこの言葉には教育の本質があると述べ、志田教授は、大人は子どもたちの自然な興味に任せてそれを学びにつなげることを手助けしてあげることが必要と締めくくった。
本プログラムには120名ものお客さまにお越しいただき、アンケートではまさに潮目を変えるような素晴らしい感想をいただき企画者として深く感謝申し上げます。ゲストの斉加尚代監督、志田陽子教授、配給のきろくびとさんにはプログラム実現に格別のご尽力をいただき厚く御礼申し上げます。そして本作を映画祭として取り上げていただいたTAMA映画フォーラム実行委員会にももちろん感謝です。来年度もこのような素晴らしいドキュメント作品を選び上映したいと意を新たにいたしました。
『教育と愛国』 | 第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
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