第33回映画祭TAMA CINEMA FORUM
PassMarket【一般、子ども(4歳~小学生)】
PassMarket【支援会員、障がい者・付添者】
多摩市立永山公民館(ベルブ永山)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ)
パルテノン多摩 2階 総合案内窓口(パルテノン多摩が会場の【B-1】〜【B-7】チケットのみ取扱い)
世界最高峰のベルリン・フィルハーモニーで、初の女性指揮者としてのマエストロの称号を得たリディア・ター(C・ブランシェット)は、音楽家としてまさに絶頂期を迎えていた。そんな時、かつての教え子の訃報が届く。そして、音楽家としての完璧な人生に綻びが生じ始める。
近年、男女の性差に関する多様な考え方が、映画という表現の領域でも頻繁に扱われるようになりました。これまで映画のなかでは、男性が女性に対してもたらす有害性を告発することが多かったように思えます。しかし、『TAR/ター』は過去の映画と異なり、有害性そのものは、男女という性別のなかにだけに存在するのではなく、性別を超えたその先にある権力構造そのものにあるのではないか。この点がこれまでの映画にはなかった視点のように思えます。偉大な才能を持ち、繊細で豊かな感受性を持つと自負していた主人公が、その構造のなかで時代感覚がずれ始め、若い才能を理解できず孤立していく過程は、痛々しい。それは悲劇なのか、それとも喜劇なのか。どちらにも捉えられるような皮肉さが魅力的であり、ケイト・ブランシェットのシリアスな演技のなかにコメディの要素をさりげなく忍び込ませた存在感が光ります。(加藤)
12歳の少年ポールは公立学校での集団生活に馴染めずにいたが、ふとしたきっかけでクラスの問題児ジョニーと仲良くなる。教育熱心な母親エスター(A・ハサウェイ)と厳格な父親アーヴィング(J・ストロング)は息子の将来を不安視するが、祖⽗のアーロン(A・ホプキンス)だけはポールの理解者として優しく接してくれていた。そんなある日、ポールとジョニーが事件を起こしてしまう……。
これまでも“家族”の姿を描いてきた名匠・ジェームズ・グレイ監督が、自身の少年時代をもとに描いた自伝的物語。舞台は1980年代のニューヨーク。子どもの目に映った祖父母・父母・兄弟と過ごす風景には懐かしさを覚えるが、未来への漠然とした希望をいだきながらも、不安や苦悩を抱えながら生きている彼らの姿は、2023年のいまを生きる私たちと重なって見えてくる。
“家族”というのは不思議なもので、生まれた時代も違えば、考え方や趣味・価値観も決して同じはずはないし、何を考えているかだって本当はわからない。それでも、ともに生きている。多様性と分断の時代、他人への共感の在り処はここにあるのかもしれない。「温かさ」と呼ぶほどにハートウォーミングな物語ではないかもしれないが、一人ひとりがこういう風に生きてきたという生身の体温を感じさせるジェームズ・グレイ監督の眼差しは温かい。(宮崎)