第33回映画祭TAMA CINEMA FORUM
多摩市立永山公民館(ベルブ永山 3階)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ 7階)
1920年に設立された黒人のプロフェッショナル野球リーグ、ニグロリーグの創立から盛衰を描いたドキュメンタリー。サチェル・ペイジやバック・オニールといった伝説的な選手たち。(彼らは初期のキャリアでジャッキー・ロビンソン時代への道を拓いた)そしてニグロリーグからスタートした殿堂入りの名選手ウィリー・メイズやハンク・アーロン。ニューアーク・イーグルスの活動家オーナーであり、全米野球殿堂入りを果たした唯一の女性であるエファ・マンリーまで、黒人社会の経済的・社会的支柱として、また偉大なアスリートたちの舞台としての黒人野球を探求する。
サム・ポラード監督は編集者としてスタートし、スパイク・リーとの仕事で素晴らしいキャリアを築いた。ドキュメンタリー監督としても、近年マーティン・ルーサー・キングJr.やビル・ラッセルを描いた作品を製作し、目覚ましい活躍を見せている。
そんな彼の新作は、現在のMLBでのアクロバティックな魅せるプレーの基盤を作ったスター選手を多く輩出しながら、歴史の陰に埋もれてしまったニグロリーグについて。驚くほど豊富な記録映像や写真を駆使して、アンサングヒーローたちを甦(よみがえ)らせた。スター選手でありながら、数日間ピーナッツバターとパンだけで生活しなければならなかったハンク・アーロンや、泊まるところがなかったため、試合後に球場でスーツケースの上で寝なければならなかったことがあるサチェル・ペイジなど、人種差別と闘いながら時代を切り拓いた偉人たちには心を打たれる。
野球ファンはもちろんのこと、当時の政治的、文化的、社会的な出来事がリーグをどのように形成したか、公民権運動に至るまでの文化的状況をより深く理解したい人にも観ていただきたい作品である。(飯絢)
大リーグ評論家。1956年生まれ、千葉県出身。68年に日米野球を初観戦し、本場のアメリカ野球に魅了される。73年に初渡米して以来、毎年現地で大リーグなど観戦。今年はミズーリ州カンザスシティのニグロリーグ野球博物館も訪問。現在は日刊スポーツ、夕刊フジなどで執筆のほか、Spotv Now、AbemaでMLB中継の解説者としても活躍中。「もっと知りたい!大谷翔平SHO-TIME観戦ガイド」(小学館新書)など著書多数。
ライムスターの宇多丸さんから本プログラムで日本初上映となる『The League』について、コメントをいただきました!
僕自身は恥ずかしながら90年代にようやく復刻版のベースボール・キャップによってその存在を知ったに過ぎない「ニグロ・リーグ」だが、本作を観るまで、ここまで豊かで重要な歴史を持っていたこと、まったくわかっていなかった!
特に、かつてのメジャー・リーグの人種隔離方針ゆえにむしろ逞しく発達したこのシーン(アフリカン・アメリカン・カルチャーの『即興性』の現れという作中の指摘も、なるほど!)が、広く知られるジャッキー・ロビンソンの活躍以降、少なくとも表面的には大きく進んだ人種融和によって逆に衰退してゆかざるを得なくなった……という皮肉な成り行きは、少数派文化と主流派社会/既存権力の一種普遍的な関係性を浮かび上がらせてもいるようで、強烈な印象を残したし、深く考え込まされた。当事者たちの貴重な生の声が豊富に残っていることにも驚かされる!
「アメリカ」を理解する上でも必見の一本。
宇多丸(RHYMESTER)