第33回映画祭TAMA CINEMA FORUM
14歳のときに交通事故に遭った吉井豊(西島)が10年間の昏睡状態から目覚めると、両親は離婚し、妹は親元を離れて恋人と暮らしていた。父の友人であり産業廃棄物の不法投棄を請け負っている藤森(役所)が、豊の面倒を見ることになる。家族を取り戻したい豊は、一家が経営していたポニー牧場を立て直そうとするが……。
10年の眠りから目覚め、浦島太郎のような気分の豊。友人はいたものの、何よりいるべきはずの家族がいなくなっており、自分という存在自体が現実にあるのかすらあやふやになっていく。焦燥感に駆られるなかでポニー牧場再建に希望を見出すが、もう一度家族で集まりたいという願いは何とも皮肉な形で叶うことになる。
黒沢清監督のフィルモグラフィーの中では『CURE』と『回路』にはさまれ、その後の『アカルイミライ』につながる「ゆるいディストピア」の流れにある作品群の一本。バブル崩壊後の「失われた十年」を象徴するような作品だが、自分がどこにいるのかわからず、言い表しようのない罪悪感が絶えず肩に乗っているようなひりひりした気分になる部分は公開から四半世紀経った現在でも強く共感できる。(理)
安達(赤井)はボクシングの試合中に頭部に瀕死の重傷を負い、開頭手術の末に意識は回復するが、ボクサーとしてはドクターストップをかけられ現役引退。ジムを開くが、指導者になりきれないなかで元チャンピオンのコーチ佐島と出会い、無謀にも選手復帰を目指す。
「浪速のロッキー」と異名をとった脅威のKO快進撃を続けたボクサー赤井英和が自らの経験をもとに阪本監督がデビュー作としてメガホンを取り、主演は原作者でもあり、元ボクサーの赤井英和本人が主人公・安達英志を演じた。また赤井と丁々発止を演じる相楽晴子、コーチ役の原田芳雄など個性溢れる人たちが登場し、ボクシングシーンでも実際の赤井の対戦相手であった大和田正春や、解説役で輪島功一が出演するなど、リアリティのある緊迫感を醸し出している作品だった。(Ao)