第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM
友人にヴァカンスの約束をキャンセルされたデルフィーヌ(M・リヴィエール)は、別の友人に誘われ南仏へ出かけるが、周囲に馴染めず、一人でヴァカンスを過ごすことにする。ビアリッツへ来た彼女は、ジュール・ヴェルヌの小説に書かれた日没前に一瞬だけ見える「緑の光線」の話を耳にする。
ロメール作品のなかでも根強い人気を持つ本作は、主演女優とおおまかなあらすじ以外は用意せず撮影された。スタッフには若い女性が多く参加し、彼女たちのアイディアを取り入れながら即興的に撮影が行われたという。
映画の冒頭、女友達にヴァカンスの約束をキャンセルされた主人公のデルフィーヌは、大げさなまでに落ち込んでいる。友人の前で泣き出したり、なぜそんなに悲しんでいるのか不思議に思うほどだ。その後、別の友人の誘いで向かった南仏でも、彼女は周囲に溶け込めず一人木陰で泣き出してしまう。木々の緑に囲まれて涙を流すその姿は、彼女の居場所のなさを表しているようで、思わず目を奪われる。理解し難いほどに内気で悲観的だと思ったデルフィーヌと私の距離は、次第に近くなっていった。
そんな孤独を抱えた若き女性に、映画はささやかな希望を与える。それはすべての女性の未来が希望に溢れているということを信じさせてくれる、一瞬の魔法のようであり、ロメールの女性たちへの眼差しの優しさが表れているように思う。(尾)
パリの高校で哲学を教えているナタリー(I・ユペール)は、同じ哲学教師の夫と、独立した2人の子供がいる。パリ市内に一人で暮らす母の介護に追われながらも充実した日々を送っていた。しかし、同士ともいえる存在の夫に、結婚25年目にして別れを告げられ、ヴァカンスを前にナタリーは一人きりになってしまう。
本作でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞したミア・ハンセン=ラブは、36歳という若さにして、フランスを代表する女性監督として高く評価され、エリック・ロメールの後継者とも言われている。監督は、自身とロメールとではスタイルが異なると述べているが、より洗練された作家性を見せた本作は、ロメール作品を彷彿とさせる魅力がある。
物語は主人公ナタリーが、夫に熟年離婚を切り出されるところから始まっていく。取り乱す彼女の姿は観ている者を苦しくさせる切実さがあるが、主人公は次第に前を向き歩んでいく。一人きりのヴァカンスで海辺のぬかるみを歩き、山を登る姿は、清々しい力強さを感じさせ、一人ぼっちで悲しむ『緑の光線』のデルフィーヌとは対照的である。美しく颯爽とした彼女の姿は、年を経ても、私たちの未来には希望があるということを教えてくれるのだ。本作の主人公ナタリーは『緑の光線』の主人公のように若くはない。けれどもそんな女性の未来を祝福するかのような監督の眼差しは、ロメールとの近さを感じさせるものがある。(尾)