第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM
女子大生のぼん(佐倉)と浪人生のリン(高杉)は幼なじみでBL(ボーイズ・ラブ)の同人誌やアニメ、ゲームが好きないわゆるオタクだ。同じくBL好きで親友のみゆ(比嘉)は東京にいる彼氏のもとに行ったきり連絡がつかない。ぼんとリンちゃんはみゆちゃんを連れ戻すべく、協力者・べび(桃月庵白酒)を巻き込み、救出作戦を決行する。
ぼんを演じる佐倉が長回しのなか放つセリフの量と仕草のオタクらしいリアルさに面食らう。高杉演じるリンはぼんに寄り添いながらも絶妙なツッコミを繰り出す。オタクの内輪ノリ、小ネタ満載でも観客を置いてきぼりにしないのはこれが決してオタクの話だけでなく友情、哲学、青春の物語でもあるからだ。
自分を形作るものとは一体何か。結局のところ、人の受け売りの人生になっていないだろうかと思うことがある。ぼんちゃんはそんな疑問に真正面からぶつかっていく。自分に響く言葉や考え方を選び取っていき、自分の物にする。それがきっと自分のアイデンティティを作っていくと彼女は信じる。先人の教えに学ぶぼんちゃんの考え方は「温故知新」そのものだ。おかしいと思うことを受け流せない彼女は生きることにとても誠実である。そのため悩み、迷うことも多い。しかし、迷子になったって行く先を照らしてくれる言葉をぼんちゃんはたくさん持っている。彼らの苦悶の先に幸あれ。(緋)
京都に生まれ育った孝豊(高杉)は高校2年生。同級生の公平(清水)は音楽の道を志して活動しており、学校は休みがち。幼なじみのみこと(葵)は文武両道といった感じで、しっかりしている。そんな彼女への恋心を抱える孝豊の、青春の情景。
「青春」は、押し出されるようにして流れてゆく。目にみえない未知のものに手が届きそうな気がしながら、生活圏内でもがく高校時代。進路を真剣に考えようにも、その先の分岐は限りなく、最後は“時間”によって半ば強引に解消されてしまう悩みも多かったかもしれないと振り返っているのは、私だけであろうか。
色彩ゆたかな京都の街並みのなかで青春のときを過ごしている孝豊の視線の先には何があるのだろう? 伝統や歴史を感じる土地柄や周囲の大人たちは、その様子をあたたかく見守っているように感じられた。また、ふとしたときに現れるアニメーションは、想像と現実のあいだを橋渡しするようであった。
なかでも、孝豊を演じる高杉の透明感が際立っている。控えめながらも周囲との関わりのなかで多くのことを吸収していく彼の姿を追いかけていく時間だった。また、挿入歌・主題歌の「Ceremony」(オリジナルはNew Order)の儚さが、作品世界にマッチしていると感じられた。(渉)
1996年生まれ、福岡県出身。2009年、舞台「エブリ リトル シング’09」でデビュー。12年に『カルテット!』で映画初主演し、特撮ドラマ「仮面ライダー鎧武/ガイム」(13年)で人気を得る。『ぼんとリンちゃん』(14年)で第36回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。本年は『PとJK』『ReLIFE リライフ』『想影(おもかげ)』『逆光の頃』『トリガール!』『散歩する侵略者』に出演。18年には『プリンシパル 恋する私はヒロインですか?』『世界でいちばん長い写真』『虹色デイズ』の公開が控えている。
1972年生まれ、千葉県出身。テレビ番組、ミュージックビデオ、CM、ビデオドラマ、WEBドラマなどの作品を多数演出。長編映画初監督作品『ももいろそらを』(2011年)が第24回東京国際映画祭 日本映画・ある視点部門にて最優秀作品賞を受賞。世界14カ国20に及ぶ映画祭に招待された。監督作、『ぼんとリンちゃん』(14年)で2014年度日本映画監督協会新人賞を受賞し、多くの評論家から賞賛を受ける。最新作、『逆光の頃』(17年)が7月に公開された。
1971年生まれ、東京都出身。大学在学中、クイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員を経て、映画評論家に。「シネマトゥデイ」「CREA WEB」をはじめ、雑誌・ウェブ・劇場パンフなどに寄稿。また、香港の地元紙「香港ポスト」でも15年以上に渡り、カルチャー・コラムを連載するほか、ライターとしても多岐に渡って活動中。『逆光の頃』ではオフィシャルライターを務めた。