第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM
19歳で英ロイヤル・バレエ団の史上最年少プリンシパルとなるも、わずか2年で電撃退団したセルゲイ・ポルーニン。新たな道を見いだそうと苦悩するなか、再び注目を集めたのは、ホージアのヒット曲『Take me to church』*1のミュージック・ビデオだった――。
「ヌレエフの再来」と称されながら、全身のタトゥーや「バッド・ボーイ」な素行がメディアなどにバレエ界の問題児と取沙汰されていたポルーニン。ロイヤル・バレエ団を突如退団した時にはBBC放送や新聞などで大きく報じられた。
その破天荒な印象をまったく覆したのが、4年の歳月をかけて作られたこの作品だ。貴重な幼少期の練習風景、バレエの舞台風景や舞台裏、家族や友人たちへのインタビューなどを織り込みながら、素顔の彼の苦悩を映し出す。
ウクライナの貧しい家庭から家族の期待を一身に背負い、最高のバレエ団で成功することだけを目標に異国でひたすら生きてきた。それが家族の幸福につながると信じていたのに、家族がバラバラになり、バレエを続ける意味がわからなくなる。退団の背景には傷ついた心を抱え、そこからもがきでようと苦悩する若者の姿があった。
もう踊ることはやめようと、最後の踊りに選んだ『Take me to church』。踊っている間はずっと泣いていたという。その踊るさまは檻のなかでもがき苦しんでいる美しき野獣にも見え、心打たれる。
皮肉なことに、この経験は彼に「踊る」ことの喜びを気づかせ、孤高の天才ダンサーはアーティストとして蘇る。以前と違うことは自分の意思で「踊る」こと、自分自身のために。(ふ)
今年4月に来日した際に、東京藝術大学の奏楽堂で開催されたもので、本編の上映後にステージで『Take me to church』を踊った様子が記録されている。(約6分)
今年の3月にロンドンのサドラーズウェルズ劇場で上演されたポルーニンのプロデュース公演「プロジェクト・ポルーニン」*2のリハーサルと本番を撮影するためにハービー・山口氏*3が渡英。リハーサル風景と、それを撮影するハービー氏が記録されている。(約16分)
1989年、ウクライナ・ヘルソン生まれ。4歳から体操を始め、9歳でキエフ国立バレエ学校に入学。13歳でルドルフ・ヌレエフ財団の後援を受け英国ロイヤル・バレエスクールに入学。19歳でロイヤル・バレエの史上最年少男性プリンシパルとなるも2年後の2012年に突如退団。15年、写真家のデヴィッド・ラシャペルが監督し、ポルーニンが踊った『Take me to church』が公開、YouTubeで1,800万回(現在2,000万回を超えている)以上再生され、ポルーニンを知らなかった人々をも熱狂の渦に巻き込んだ。現在はダンサー、俳優として活動しながら、ダンサーを支援する組織「プロジェクト・ポルーニン」を主宰する。
1950年、東京都出身。大学卒業後10年間のロンドン滞在中、劇団の役者を経て写真家になる。ロンドンでは折からのパンクやニューウエーブのムーブメントに遭遇。デビュー前のボーイ・ジョージとルームシェア、多くのミュージシャンと交流するなか、生きたロンドンの写真を撮り続けた。帰国後も福山雅治、エレファントカシマシなどさまざまなアーティストから市井の人々までを、常に「生きる希望」をテーマとして撮影している。その清楚な作風を好むファンは多く、エッセイ執筆、ラジオDJ、さらに布袋寅泰のアルバム「ギタリズム」には作詞家として参加している。
アイルランド出身のシンガーソングライター、ホージア(Hozier)がロシアのゲイ差別を題材に楽曲(2013年)し、大ヒットする。第57回グラミー賞・最優秀楽曲賞にノミネートされた。
ロイヤル・バレエ団を辞める時、相談できる人はだれもいなかったという自身の苦い経験から、サポートがないまま苦労している若いダンサーを支援するシステムを作り、インフラを整えたいと立ち上げた組織。
ハービー氏は、この公演に密着した写真集『The Beginning of a Journey:Project Polunin』を7月に上梓し、4月来日時の奏楽堂でも撮影を行っている。