第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
1962年、ニューヨークのナイトクラブ「コパカバーナ」の用心棒トニー・バレロンガ(V・モーンテンセン)は、店が改装で休業する2ヶ月間の仕事を探していた。そこで彼が紹介を受けたのは、カーネギー・ホールの上階に住む黒人ピアニストのドクター・シャーリー(M・アリ)の運転手。彼らは黒人旅行者のためのガイド「グリーンブック」を手に、南部へのツアーに発つ――。
音楽は旅をして“会話”する。
黒人差別の解消が進まない南部(ディープサウス)に向かうツアーを計画したドクター・シャーリーには、自身の音楽への探求心だけでなく、各地で演奏し聴衆と交流することで差別を生む壁を崩そうとする強い意志があった。ただ、彼が最初に感じた“問題”は、相棒に選んだトニーとの相性だったかもしれないが。
一方のトニーがドクター・シャーリーへの関心を深めるきっかけは、ツアー初日の演奏だった。結局、彼らは時間(いくつもの会話)と経験の共有によって、生涯にわたる友人同士になった。
交流と融合により発展してきた音楽の歴史は必ずしも明るいものばかりでなく、先人たちの苦しみと無関係ではない。本作は、現代の課題にも前例や慣習にとらわれずに向き合うことの大切さと、その作法を示唆している。
蛇足ながら、本作を観て連想した作品として『ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷』、『ソウル・パワー』(いずれもドキュメンタリー)を挙げておきたい。(渉)
1949年、冷戦に揺れるポーランド。歌手を夢見るズーラ(J・クーリク)とピアニストのヴィクトル(T・コット)は音楽舞踊団の養成所で出会い、恋におちた。しかし政府に監視されるようになったヴィクトルはパリへ亡命。歌手になったズーラは公演活動で訪れた先々でヴィクトルと再会し、共にパリで暮らし始めるが、ある日ポーランドへ帰ってしまう。あとを追うヴィクトル……。
前作『イーダ』で、ポーランド映画で初のアカデミー賞®外国語映画賞を受賞したパヴリコフスキ監督の最新作。激動の時代に翻弄されながらも音楽で結ばれ、激しく燃えあがる愛を貫こうとする2人の姿が、美しく鮮烈なモノクロ映像で描かれる。
物語の全編を占めるのが音楽だ。日本語作品タイトルにある「2つの心」はポーランドの伝統的な楽曲「Dwa serduszka」から来ており、劇中でも民族音楽、ジャズと形を変えて歌われている。“黒い瞳を濡らすのは一緒にいられないから~”“昼も夜もずっと泣いている~”の歌詞が、主人公の心情と見事に同化していく。
ポーランド、ベルリン、ユーゴスラビア、パリを舞台に、15年間にわたり別れと再会を繰り返した2人の愛の形。部分的ではあるが監督のご両親を基にしているそうだ。
ラストシーン、そして流れてくる「私の両親へ」というクレジットに、ゆっくりと深く静かに感動が拡がっていく。第71回カンヌ国際映画祭監督賞(2018年)受賞。(ふ)