第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
東京でモデルとして活動していた夏芽(小松)は、父の都合で東京から離れ浮雲町という田舎に引っ越す。都会とは真逆の退屈した日々のなかである日、金髪の少年・コウ(菅田)と出会う。不思議な魅力を持つお互いに惹かれていく二人。しかし町に伝わる火祭りの日に二人をある事件が襲う。
「特別」と「普通」その二つが複雑に絡まった物語だと感じた。町のなかの特別で、どこか神秘的で不思議な魅力を持つコウと都会から突然町にやって来た特別な存在である夏芽。この二人が出会い、惹かれあっていく様は特別さがあるために脆く危うげに見える。しかし相手に近づきたいと不器用にもがき、ときに逃げ出してしまう姿は、恋心を抱く普通の学生のようにも見える。一度は事件をきっかけに現実に引き戻され、普通の幸せを手に入れようとする二人。けれど心のどこかにある忘れられない特別への想いがまた二人を引き合わせる。渦巻く思いのなかから彼らは一体何をつかんだのだろう。
小さな町のなか、不安定な二人の間で交差する幻想と現実、特別と普通。ひとたび彼らの生み出す感情の波に溺れてしまえば、きっと心のなかに沈んだ特別へのあこがれが、普通のいとしさがあなたの心にも浮かび上がってくるだろう。(零)
平凡な女子高生・初(堀)はある日、同じマンションに住む亮輝(清水)に弱みを握られてしまう。そんな時、数年前に突然引っ越した幼馴染の梓(板垣)が帰ってくる。初は自分を守ってくれる梓に惹かれ、二人は付き合うことになる。しかし梓にはある目的があり、さらに、一緒に暮らす兄・凌(間宮)の秘密を知ってしまう……。
これは1人の女の子が3人の男の子との恋に揺れ動く姿を描いた、新しい時代の青春恋愛映画である。とめどなく溢れる言葉、印象的な音楽、目まぐるしいカット割り、美しい風景描写、これらが融合した山戸監督の世界観に鮮烈な印象を受けた。
ヒロインの初は、恋をするなかで傷つき、迷い、もがき、自分の本当の気持ちを探していく。10代とは誰かの言葉ですぐに傷ついたり、心が揺らぎやすいもの。湾岸地帯の無機質な高層マンションと、そこで繰り広げられる男女の繊細な駆け引きが印象的だ。そして、初恋を通して「わからない」感情に真正面から立ち向かっていく姿がまぶしく、スクリーンのなかでひたすら追いかけていた。映画を観終わった後、私も自分の本当の気持ちと向き合って動き出したい、と思ったのを覚えている。言葉にならない感情を、これほど情熱的に、強く訴えかけてくる山戸監督の映画はこれからも見逃せない。(福)
2012年、上智大学在学中に『あの娘が海辺で踊ってる』で監督デビュー。『おとぎ話みたい』(13 年)で日本映画プロフェッショナル大賞新人賞を受賞。映画『溺れるナイフ』(16年)では、小松菜奈、菅田将暉を主演に迎えてヒット。企画・プロデュースを務めたオムニバス作品『21世紀の女の子』(18 - 19 年)は、東京国際映画祭に特別招待される。最新作は『ホットギミック ガールミーツボーイ』(19年)。
1982年生まれ、和歌山県出身。音楽家・文筆家・俳優。「毛皮のマリーズ」として活動後、翌年「ドレスコーズ」結成。これまでにアルバム6枚、シングル3枚、映像作品4枚を発表。俳優として『溺れるナイフ』(2016年)「グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-」(16年)『ホットギミック ガールミーツボーイ』(19年)に出演。18年、音楽監督作品「三文オペラ」(KAAT)上演。11月20日、LIVE Blu-ray & DVD『ルーディエスタ/アンチクライスタ the dresscodes A.K.A. LIVE!』発売。