第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
インドの下町で繁盛店を経営しているラージ・バトラ(I・カーン)は、妻ミータ(S・カマル)にリードされる形で一人娘の名門私立校受験準備を進める。なんとしても合格するため、引っ越しや親の面談講座まで受けて臨むが上手くいかず、「奥の手」を使うも……。実際にあった出来事をヒントにしたインド版お受験ドラマ。
日本でも「お受験」という言葉はすっかり定着しているが、インドでもそう変わらない……どころか熾烈を極めていることにまず驚く。
前半はそんな今の学歴社会インドを風刺するようにコミカルに描き、後半は一転ググっと考えさせられ(ここからがこの映画の本気!)、クライマックスでは熱くなる。
この映画の面白いところは「受験結果がわかる」ところでクライマックスにしなかった点。ここ最近のインド映画は、従来の「楽しいエンタテインメント」の核は守りつつ、常に何かしらの社会問題をあぶりだしている。インドと言えば「踊る映画」、そう思っている方もまだまだ多いかもしれないが、本作で歌うのは(オープニング以外)自然な範囲となっており、ミュージカル度は低い。歌うインド映画は苦手という方にもぜひ観て欲しい。(お)
14歳の少女インシア(Z・ワシーム)は歌うことが大好き。だが、父からは高圧的に禁止される。母は応援しているが、父から日常的に言葉や暴力で抑圧され、隠れてPCを買い与えるのが精一杯だった。インシアがそのPCを使いYouTubeで歌を流し始めると、またたくまに評判になり、若干落ち目の有名プロデューサー(A・カーン)の目に留まるが……。
2019年4月時点でインド映画歴代世界興収第3位となったヒット作。
感動的な母と娘の物語がメインだが、インシアは反抗期でもあり、時に味方のはずの母にもあたる辺りが、とてもリアル。自分の夢を叶えたい、その一点突破を試みるなかで、周りの愛や気持ちに気づく成長ストーリーにもなっていて、『ダンガル きっと、つよくなる』でも娘役を演じたザイラー・ワシームが等身大の魅力で演じている。
その『ダンガル きっと、つよくなる』で主役を演じたアーミル・カーンはプロデューサー役のため、ほとんど後半にしか出番がないにも関わらず、あっという間に観客を魅了するのも見所。
YouTubeとスマートフォンが生活に馴染んでいる世界と男尊女卑などまだまだ古い社会通念が根強い世界が同居するインドだからこそ、まだまだ観たことのないオリジナルの物語が紡ぎ出される。ラストはハンカチのご用意を。
インド映画はこれからが面白い!(お)
1974年生まれ、神奈川県出身。インド旅企画&女子旅アドバイザー。「インド楽しいこと案内人アンジャリ」として主にツイッターで日々発信中。新卒で入社した旅行会社でインド専門添乗員を務めたのち5年間の海外生活。帰国し外資系証券会社で10年間の勤務を経て、現在は映画ロケ地巡りやマダム旅などテーマのあるツアーを企画し、自身で添乗するなど、新しいインド旅行の開拓をしている。Webサイトは https://www.mikiyahiro.com