第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
インディーズで人気を浴び始めた女性デュオ「ハルレオ」のハル(門脇)とレオ(小松)だが、ローディー兼マネージャーのシマ(成田)が参加していくことで徐々に関係をこじらせていた。「二人とも本当に解散の決心は変わらないんだな?」全国7都市を回るツアーへの出発の朝、車に乗り込んだハルとレオにシマが確認する。
荒々しく車の扉がしまる音。もくもくと漂う煙草の煙。解散ライブを控えたハルレオの最後のツアーが始まるところから映画は動き出す。怠惰のなか旅が始まったというのにいざステージに立つと息がそろい、ハルレオが歌うことに何の違和感もない。埃っぽいライブハウスのなかで期待と喜びに満ちた観客と終始クールなハルレオ、その後ろでひっそりと2人をアシストするシマ。ライブハウスに漂う空気感がリアリティを持って伝わり、以前好きなアーティストのライブへ通ったことを思い出した。
不器用な2人は“解散”というただ1つ合意した未来を意地でも変えようとしない。大切だと思っているのにうまく甘えることが出来ずにいたり、互いに自分にないものに憧れを持ちながらも素直になれないといった裏腹な気持ちが表情の隙間に見え隠れし、変わらないでいることの難しさを感じさせた。また、2人の澄んだ歌声とアコースティックギターの音色をぜひスクリーン越しに聴いてほしい。(北)
マモちゃん(成田)のことが好きなテルコ(岸井)は、いつ連絡が来てもいいよう遅くまで会社に残りマモちゃんからの連絡を待つ毎日。だけどマモちゃんはテルコとは真逆のタイプのすみれ(江口)に憧れている。自分のことを好きじゃなくてもいい、ただマモちゃんの側にいたい……正解がないからこそ難しい、片想いの物語。
生活のすべてをマモちゃん優先で生きているテルコと、都合よく自分に合わせてくれるテルコとの関係をはっきりさせないマモちゃん。好きな人が連絡をくれて会いたいと思ってくれること。たとえそれが「単なる暇つぶしに丁度いい相手として」だったとしてもテルコに断る理由はない。客観的に見ればマモちゃんとの関係を終わらせて次の恋愛に踏み出すべきだとテルコ自身も分かっていると思う。しかし、恋愛において自分のことを客観的に考えられる人はほとんどいないのではないだろうか。テルコの最優先事項は、関係性が変わることでマモちゃんに会えなくなるのを避けること、マモちゃんと会えるチャンスを逃さず呼ばれたらすぐに駆けつけること。恋人になれなかったとしてもマモちゃんと過ごせることはテルコにとって最高の幸せなのだ。そんなテルコのことを馬鹿だなぁと思いつつ、順調には進まない恋愛を必死にまっとうするその人間くささに共感してしまう。(佐小)
1993年生まれ、埼玉県出身。2014年に連続ドラマ「FLASHBACK」で俳優デビューを果たし、映画『飛べないコトリとメリーゴーランド』(15年)で映画初出演。以降、TV ドラマ、映画に数多く出演し、18年に『スマホを落としただけなのに』、『ビブリア古書堂の事件手帖』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。本年は『愛がなんだ』『チワワちゃん』『さよならくちびる』など、すでに5作品が公開。12月に『カツベン!』、来年『窮鼠はチーズの夢を見る』などの公開が控えている。
1981年生まれ、福島県出身。2009 年『最低』で第10回TAMA NEW WAVEグランプリ受賞。2010年『たまの映画』で商業監督デビュー。代表作に『サッドティー』(13年)、『知らない、ふたり』(16年)など。18年『パンとバスと2度目のハツコイ』で第10回TAMA映画賞最優秀新進監督賞を受賞。本年は4月公開の『愛がなんだ』が大ヒットを記録。最新作『アイネクライネナハトムジーク』も絶賛公開中。公開待機作に田中圭主演の『mellow』、宮沢氷魚主演の『his』、若葉竜也主演の『街の上で』(以上20年公開予定)がある。
1993年生まれ、福島県いわき市出身。写真家。2012年より写真を撮り始め、以来作品制作とクライアントワークを並行する形で活動している。幼少期の記憶と新しい体験を行き来するように制作を続け、これまでに4冊の写真集を発表。最新作は19年の「灯台」。『愛がなんだ』ではメインビジュアルと劇中写真を手がけている。