第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
神奈川県大和市に暮らすフリーターのニーナ(遠藤)は、スー(SUMIRE)、ケンジ(柳)と3人で部屋をシェアしている。ある日ニーナは旅行ペア券の抽選に当たり、スーと2人でシンガポールへと旅立つ。旅先でスマホを紛失したニーナは、スーともはぐれてしまうが……。
光、色彩、音、すべてが、観るものをシンガポールの路上に連れて行く。作品全体がライヴ感に満ち満ちているのだ。ダンス、音楽が内容としても盛り込まれていて、臨場感が増している。スマホでの撮影、アプリの映像などが、作品のありようと密接に関わっているのだろう。撮影、録音、音楽、カラリスト、現地をよく知るプロデューサー、衣装、スタッフたちが息遣いの感じられる作品に仕上げてくれた。
国名も歴史もよく知らないニーナとスー。マーライオンや慰霊塔など興味もない。スマホがあれば事足りる今の旅行。スマホを介さずして自身で触れていく旅を、女優2人がゆるり、さらりと演じる。やがてはぐれたニーナは、ホテルを目指していたはずが迷い、都市から離れ、さまざまな人種、宗教のシンガポールの街を彷徨い始める。夜になり、画面に俄然表情がでている。そして、イスラムの青年とその家族に晩御飯をご馳走になり、心開かれてゆく。この場面の素晴らしさは是非映画をご覧下さい。
『大和(カリフォルニア)』から『TOURISM』。宮崎監督は何処に向かうのだろう。(綾)
神奈川県大和市在住の佐々木は親友の鈴木と今日も無為に時間を過ごしている。佐々木には「天然水」という会ったこともないメル友がいた。「天然水」は佐々木に直接会わないかと持ちかける。今日は佐々木の誕生日だった。
言葉と心。心と身体。上半身と下半身。いつもすれ違い続ける私たちはいつか出会えるのだろうか。
都内近郊に住む4人の女性、詩織、雪子、今日子、幸子は、それぞれ誰かを思う気持ちを抱えながら、それを伝えられずに、それぞれの孤独を生き、日々の生活をつづけている。旅に出てしまう同僚、他界した父親、閉店が近いアルバイト先の仲間、長い年月行方知れずの夫のことを思いながら、彼女たちは次の一歩を踏みだしていく。
この作品は、歌人の枡野浩一と映画監督の杉田協士が、「光」をテーマに開催した短歌コンテストで、1200首のなかから選出した4首の短歌を原作に制作した長編映画。暗闇のなかで息をひそめてスクリーンに映し出される光、『ひかりの歌』を見つめる。日常をそのまま切り取ったような、それぞれの作品の主役の女性の日常を見つめているような、そんな気持ちになる。歩く、走る、泣く、笑う、黙る、食べる、歌う。誰かを見つめたり、誰かに見つめられたり。寄り添ったり、すれ違ったり、ひとり孤独になったり。この映画が切り取ったおだやかで、ささやかで、何気ない時間は、気がつけばキラキラと光っているように感じられる。平穏な日々のなかで、心のなかは強く誰かを思う気持ちであふれていながらも、それを伝えられずにいる、そんな優しく、切なく、美しい思いも自体もキラキラと輝き、そのひかりでこころが温められるような、さりげなく感動させられる映像。(に)
反対になった電池が光らない理由だなんて思えなかった(加賀田優子)
自販機の光にふらふら歩み寄り ごめんなさいってつぶやいてた(宇津つよし)
始発待つ光のなかでピーナツは未来の車みたいなかたち(後藤グミ)
100円の傘を通してこの街の看板すべてぼんやり光る(沖川泰平)
1977年生まれ、東京都出身。映画監督。写真や小説も手がける。2011年、映画『ひとつの歌』が第24回東京国際映画祭にて上映、12年に劇場公開。同年、歌人の枡野浩一氏との共著になる写真短歌集「歌 ロングロングショートソングロング」(雷鳥社)出版。小説「河の恋人」(14年)、「ひとつの歌」(15年)が文芸誌「すばる」(集英社)に掲載。演劇との関わりも強く、「金子の半生」(ハイバイ、10年)、「浴槽船」(FUKAIPRODUCE羽衣、12年)、「洪水」(12年、指輪ホテル)などの映像作品がある。
1980 年生まれ、神奈川県横浜市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。フリーの助監督を経て、脚本を担当した筒井武文監督作『孤独な惑星』が2011 年冬に公開。同年、初の長編作品『夜が終わる場所』を監督。世界中の国際映画祭に出品され、トロント新世代映画祭では特別賞を受賞した。15 年にアジア四ヶ国によるオムニバス映画『5TO9』のうちの一編『BADS』を監督、18年『大和(カリフォルニア)』、19年『TOURISM』を公開。