第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
荒れ果てた平安時代の京の都。都の羅城門で3人の男が雨宿りをしている。杣売りと旅の法師はある事件のために検非違使に出頭した後の帰りだった。2人はその事件の話をもう1人の男に話し始める
芥川龍之介の短編小説「藪の中」を、脚本家を志望していた橋本忍が脚色し、黒澤明の助言で同じ芥川の短編「羅生門」が加えられた。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞、米・アカデミー最優秀外国語映画賞を受賞し一躍日本だけではなく世界のクロサワの誕生だった。
正確には<藪の中>なので密室ではないのだが、密室サスペンス会話劇の一つの型となるような名作。登場人物が多くもなく、シチュエーションも少ない、しかし橋本忍の緻密な脚本と三船敏郎のインパクト、京マチ子の妖しさが目を見張った。人がつく嘘、嘘で捻じ曲げられていく事実。本作が作られた時代も、平安時代も、現代も未だになんら変わることなく自身の保身のために嘘をつく。人間とはまったく度し難い生き物である。(青)
社内での権力争いのなかで勝ち上がり、会社を手中に収めようと画策する権藤(三船)。しかしそんな折、権藤のもとに「子供をさらった」という男からの電話が入り、誘拐事件から物語が始まる。
この作品にはあまりにも逸話が多すぎる。作品を観てその逸話を知るもよし、逸話を色々と知ってから作品を観るのもよし。随所に黒澤明や橋本忍などのスタッフのこだわりにこだわり抜いた点が見て取れる。
中でも有名なのは酒匂川の鉄橋から身代金を投げる時にある家の2階が撮影に邪魔だからと2階を実際に取り壊したことだろう。何度となく訪れている酒匂川だが、その家はもうない。とても残念だ。
もう一つ好きな逸話は山﨑努のラストシーン。当初は違うラストシーンだったが彼の演技があまりにも凄くてそのまま使用したという。『天国と地獄』の意味。犯人の心理、強いては作品のテーマがそこに凝縮していた。時代もシチュエーションも違うが、脚本を弄られるのを嫌う梶原一騎が脚本を変えることを認めた、「あしたのジョー」の真っ白になったジョーのラストと重ねてしまった。(青)