第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
多摩市立永山公民館(ベルブ永山)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ)
パルテノン多摩 総合窓口(【B-1】~【B-8】のみお取扱い)
観客からの熱狂的な嬌声を受けながら、激しく歌うエルヴィス・プレスリー(A・バトラー)。そして、彼の才能に目をつけたトム・パーカー(T・ハンクス)。瞬く間に、世界中を席巻したエルヴィスのパフォーマンスは、彼の運命を思いも寄らぬ場所に導いていく。
エルヴィス・プレスリーほどのスーパースターとなれば、最初に触れた時期によってイメージが異なるかもしれません。初期の不良性を帯びたシンガーとして、後期のジャンプスーツに身を包み「ラブ・ミー・テンダー」を甘く歌う姿、あるいは、映画スターとしてのイメージがあるかもしれません。映画『エルヴィス』は、この巨大なイメージを持った人物がショウビジネスの世界でどのように生き、アメリカの歴史と歩み、悲劇的な最期を迎えたのか。そして何より、ミュージシャンの素晴らしさに触れることができます。特筆すべきは、エルヴィスを演じたオースティン・バトラーです。何気なく会話している時に、声がハッとするほど似ていると思いました。個人的には、エルヴィスの楽曲のなかでは、作曲家チームのジェリー・リーバー、マイク・ストーラによる「ハウンド・ドッグ」「監獄ロック」の頃の初期が好みです。映画としては、エルヴィス愛にあふれたジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』も良いですね。(彰義)
“CODA”とは、Children of Deaf Adults(耳の聞こえない、聞こえにくい親のもとで育つ子ども)の略。耳の不自由な両親と兄に囲まれ、家族で一人だけ、ろう者でないルビー(E・ジョーンズ)は、家の漁業の手伝いや、家族と周囲を取り持つための通訳者を担いながら高校へ通っている。新学期に合唱クラブへ入部すると、顧問の教師に歌唱の才能を見出され、名門音楽大学への受験を強く薦められる。試験を目指し、日々、歌の練習に励むルビー。しかし、家族からは理解してもらえず──。
音は振動なので、聴こえずとも感じ取ることはできる。後半のオーディション会場でのルビーの歌声が印象的で、広い会場の大きなスクリーンの前でじっくりと聴きたくなる。そして、そのシーンの家族を見つめながら手話を交えて歌うルビーの姿勢こそが、邦題にある“あいのうた”であろう。歌は単なる音、振動にとどまらず、人の想いを表現するための手段でもあると、あらためて気付く。描かれる苦難や社会の厳しさに目は向かうものの、観終えた時にはすがすがしさがあった。家族のなかで衝突しながらも、絆によってハーモニーが生まれるさまは、遠く離れてもつながりが途絶えないことを教えてくれるようだ。実際にろう者の俳優陣を起用した本作は、自然な音楽と優れた選曲が耳に心地よい。94回アカデミー賞作品賞受賞。(♨)