第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
戦争で傷を負った父(渡辺)、後妻の母(小山)、血の繋がらない兄弟の少年(阿部)とチビ(木下)の4人は当たり屋で生計を立てつつ、足がつかないよう全国各地を転々とする。
1960年代に実在した、子どもを使った「当たり屋」事件を題材にした作品。犯罪者家族を描いた映画といえば『万引き家族』が思いつくが、50年前にもこんな作品があったのかと驚いた。しかも日本列島を北上していくロードムービーでもある。
少年がひとり涙を流して「できたぞ、父ちゃん」と呟く冒頭。それが当たり屋の演技の練習であり、傷痍軍人の父に暴力を振るわれて嫌がりながらもどんどんその手口を上達させていく姿に、子どもの柔軟性や適応力の負の側面を、皮肉なほど感じてしまった。
途中、お腹の子を堕胎したくない継母と協力関係を築いたところから物語はスピードアップする。いよいよ北限・北海道の宗谷岬でようやく犯罪行為の繰り返しから解放されるかと思いきや、実際の交通事故を目の当たりにしてそこからもうひと展開。雪が積もった野っ原で少年が幼い弟に宇宙人の話を語る場面は、その場の寒さを肌身で感じられるような切実さがあった。(理)
横須賀・ドブ板通り。水兵で賑わう繁華街を横目に売春を摘発されて商売上がったりの日森一家の表情は冴えない。そんななか、ひょんなことから一家のチンピラ・欣太(長門)は豚の飼育を始めることになる。
戦後すぐの混沌とした横須賀・ドブ板通りを舞台に、貧困と暴力に翻弄される人間の愚かしさを豚と対比しながら滑稽に描いている。寓意的で殺伐として救いようのないストーリーだが、活力あふれる俳優たちの演技、軽やかでユニークなタッチの演出、ロケーションの力強さが相まって独特の魅力がある作品となっている。
若かりし頃の長門裕之や丹波哲郎、小沢昭一、南田洋子、菅井きん、東野英治郎といった錚々たる面々のなか、新人だった吉村実子演じるヒロイン春子の存在感が際立っている。特にラストで、軍艦でやって来た米兵を我先に捕まえようとする女たちの波を掻い潜るようにひとり電車のホームに向かう背中は、「自立してこそ人間」というメッセージを表していて強い印象を残した。
また、春子が米兵に暴行されるシーンで天井からベッドを見下ろすカメラがぐるぐると回転する演出は非常に斬新。一見の価値がある。(理)