第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
多摩市立永山公民館(ベルブ永山)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ)
砂漠を歩き続けた男(チャン・イー)が、上映会が終わったホールに着く。そこでフィルムの缶を盗む少女(リウ・ハオツン)を見つけ、フィルムの争奪戦が始まる。その理由は――。
そのなかで缶から飛び出したフィルムがホコリまみれ。観客の人海戦術でフィルム救助作業を始める。そして男の執念、少女の切実な理由が明かされる。
労働改造所から脱走した男と、小柄でボサボサの少女とのフィルムの缶の暴力的な争奪戦は、文化大革命時代の中国人民の生き延びるエネルギーに満ちている。男のフィルムへの執念は脱走の理由でもあった切実で泣かせるものだった。
数カ月に一度の映画をどうしても観たい観客のフィルム救助作業の熱気は、名画『ニュー・シネマ・パラダイス』のシチリア島の人々に重なり、作業にはハラハラしてしまう。
蒸籠でこしらえた蒸留水で洗い、各自持ち寄った布で丁寧に拭き、乾かす。これは監督の実体験でもあるようだ。
そして映写技師の長男への哀しみは蒸留水が原因、男の観たかったものが作品名にある「一秒間」の映像、少女がフィルムをどうしても欲しかった弟へのやさしさが明かされる。
最後の場面は労働改造所から解放された男と、少女が弟の大学合格発表の場所で再会。
かつてフィルムが唯一の上映手段だった頃への愛惜に溢れた映画である。(勝)
1950年生まれ、東京都出身。映画批評家。主な著書に「ジョン・ウー/フィルム・メーカーズ12」(責任編集/キネマ旬報社)、「無限地帯 from Shirley Temple to Shaolin Temple」(ワイズ出版)などがある。また、監督として『おろち』(78年)が第2回ぴあフィルムフェスティバルに入選。俳優としてウィリアム・テロル監督『タイ・ブレイク』(94年)、斉藤久志監督『草の響き』(2021年)などに出演している。11年ジャッキー・チェンを記念した成龍映画祭でトークショーに出演。雑誌「HONG KONG RAPID」元顧問。