第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
多摩市立永山公民館(ベルブ永山)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ)
パルテノン多摩 総合窓口(【B-1】~【B-8】のみお取扱い)
みんなみたいにキラキラできない17歳のうらら(芦田)の楽しみはこっそりBL漫画を読むこと。夫に先立たれた75歳の雪(宮本)は、本屋で綺麗な表紙の絵柄に惹かれ1冊のBL作品を、内容を知らぬまま手に取った。雪はBLの恋物語に魅了され度々うららがバイトする本屋に向かい……。年の差58歳の二人は、イベント参加など共通の「好きなもの」を通じて交流を深めていく。
本作を観終わって映画館を出た瞬間、真夏の厳しい日差しも柔らかくなったような気がした。「やさしい」と「あたたかい」と「かわいい」が混ざりあって胸がいっぱいになった。登場人物はみんなまっすぐでやさしい、悲しい出来事は一個もないのに、少し泣いた。いや、大泣き。年齢も立場も違う二人が純粋な「好きという気持ち」によって出会うこと自体が、もう奇跡。ボーイズラブの尊さに対する「好き」を通じて、うららちゃんと雪さんが出会った。この二人の出会いに対して、私もまた尊さを感じ、新たな「好き」が生じた。
「好きという気持ち」のチカラは世界を救えないかもしれないが、うららに勇気を与えることができる、そしてちょっとだけ人を優しくすることもできる。今度のTAMA映画祭でもう一度本作を観て、パルテノン多摩小ホールを出た時に、晩秋の肌寒い空気がほんの少し暖かくなればいいなと、そう願う。(Z)
1977年生まれ、大阪府出身。「奇跡の人」(2016年)で第71回文化庁芸術祭賞テレビ・ドラマ部門大賞など受賞。「泣くな、はらちゃん」(13年)、「生田家の朝」(18年)、「知らなくていいコト」(20年)、「ムチャブリ! わたしが社長になるなんて」「祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録」(いずれも22年)など数々のドラマの演出を手がける。映画監督作品は『妖怪人間ベム』(12年)、『青くて痛くて脆い』(20年)など。
1982年生まれ、富山県出身。2007年に「おおきな台所」でデビューし、同作品で第52回ちばてつや賞準大賞を受賞。16年より「don't like this」初連載。翌17年から20年まで「メタモルフォーゼの縁側」を「コミックNewtype」にて連載、「このマンガがすごい! 2019」(宝島社)オンナ編1位や「第22回文化庁メディア芸術祭」マンガ部門 新人賞を獲得。
兵庫県生まれ。映画解説者。WOWOW「映画工房」、シネマトゥデイ「はみだし映画工房」、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジュ」ほか、TV、ラジオ、雑誌、新聞、WEBなどで映画解説を展開中。「スティーヴン・スピルバーグ 映画の子」(KAWADEムック)、「森田芳光全映画」(リトルモア)などに寄稿。関心のないことに関心を持てる若い人材を育成するため「偶然の学校」の代表、社会を前進させるための情報発信を行う新メディア「あしたメディア」の企画担当など多面的に活動中。
恋をしている女性が光って視える西条(神尾)は、文学女子東雲(平)に一目惚れをし、一緒に恋の定義を考えることに。西条への想いを胸に秘める北代(西野)と略奪に恋する宿木(馬場)も巻き込み、不思議な四角関係が始まる。4人の恋、想いはどう変化していくのか、それぞれの恋は見つかるのか……。
「恋とは、誰しもが語れるが、誰しもが正しく語れないものである」
何てしっくりくる言葉だろうと、感銘を受けた。一見、非現実的な物語で一歩引いてしまいそうだが、軽快な会話のテンポや独特なセリフ回し、そして終始広がるエモいロケーションにスッと惹き込まれた。文学的とコメディが絶妙……!さらに、出演者それぞれが個性的で、「ほろ苦い」「甘酸っぱい」と表現される恋に対して、悩みながらも時には素直に突き進む。そのひたむきさが胸を打ち、すべての登場人物が愛おしい。
いつの間にか一緒になって恋とは何か考え、友だちの恋を応援しているような気持ちに。「恋とは?」その問いに正解はないが、これからは辞書で「恋」を引くとこの作品の名前が出てくるように、みんなに観てほしいと思う。一人ひとりが持つさまざまな想いをも包み込み、観終わった後「今日はスキップして帰ろう」みたいな楽しい映画体験ができるに違いない。西条のように「恋の光」は見えなくとも、恋をしている人は輝いている。―あなたもきっと、恋がしたくなる―(怜陽)
1972年生まれ、千葉県出身。監督、脚本、撮影を担当した『ももいろそらを』(2011年)で長編映画デビュー。第24回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門で作品賞、第50回ヒホン国際映画祭で日本映画として初のグランプリを受賞。続く長編『ぼんとリンちゃん』(14年)では第55回日本映画監督協会新人賞などを受賞。その後は『逆光の頃』(17年)、『殺さない彼と死なない彼女』(19年)など漫画原作を監督、脚本した。
兵庫県生まれ。映画解説者。WOWOW「映画工房」、シネマトゥデイ「はみだし映画工房」、BRUTUS「30人のシネマコンシェルジュ」ほか、TV、ラジオ、雑誌、新聞、WEBなどで映画解説を展開中。「スティーヴン・スピルバーグ 映画の子」(KAWADEムック)、「森田芳光全映画」(リトルモア)などに寄稿。関心のないことに関心を持てる若い人材を育成するため「偶然の学校」の代表、社会を前進させるための情報発信を行う新メディア「あしたメディア」の企画担当など多面的に活動中。