第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
愛媛県松山市の港町で泰良は喧嘩ばかりに明け暮れていた。なぜ理由もなく暴力を振るうのか?泰良(柳楽)に興味を持った高校生の裕也(菅田)、偶然に巻き込まれたキャバクラ嬢の那奈(小松)、泰良の唯一の家族である弟の将太(村上)。泰良に触発され、人々に殴り掛かる裕也に始まり暴力が伝播していく……。
こんなにも全編を通して暴力描写ばかりの映画は初めてだった。真利子哲也監督と柳楽優弥を始めとする若手実力派俳優によって今までに類を見ない暴力、狂気が描かれ、ロカルノ国際映画祭で最優秀新進監督賞を受賞したのもうなずける。
義理や人情、金、仲間、女、プライドのためといった任侠映画や不良映画で描かれる暴力のどれも主人公、泰良には当てはまらない。また弱いものいじめ的なものでもなければ、殺意でもなく、彼の暴力は人間の狡さを抜きにした潔さがあり純粋ささえも感じられる。そして、唯一渇望する暴力が彼の生きる実感につながっているようにも思える。これが泰良が嫌な奴、と思えない理由なのだろう。ただ、確実に近づきたくない人物ではあるが。そして、演じる柳楽優弥の強大な存在感と多くを語らずとも魅せる演技が素晴らしく、圧倒される。
一見現実離れした人物に思える泰良だが、実は時代を反映した人物にも思え、リアルさを追求した暴力的な描写はもしかしたらホラーよりも鳥肌ものかもしれない……。(緋)
片思いの女の子に近づこうと修学旅行に臨むフツーの高校生・大助。突然の交通事故にあって目覚めた場所は、世にも恐ろしい?地獄だった。目の前に現れたのは地獄専属ロックバンド・地獄図(ヘルズ)と、そのリーダーの赤鬼・キラーK。大助は鬼特訓の末に現世へ輪廻転生を果たすことができるのか?
人気脚本家・宮藤官九郎が、映画監督としてもその才能を解き放つ異色のミュージカル・コメディ映画。個性的なキャラクターたちが奏でる軽快なロックと疾走感あふれるストーリー展開が魅力。
大助(神木)は、破天荒な地獄ルールに翻弄されながら現世への転生をめざすうちに、ひろ美ちゃん(森川)のその後やキラーK(長瀬)の秘密がしだいに明らかに。……と伏線をはりながらも、あくまで本作で輝きを放つのは豪華なバンドメンバーたち。意外にもイケてる邪子(清野)とCOZY(桐谷)。他にも有名ミュージシャンが多数出演しているが、さすがに個性派ぞろいなので鬼メイクしていても誰だか大体わかってしまう。ロックはやっぱりカッコつけてなんぼ。地獄の底で愛を叫ぼう!これは映画館の大きな音で観るべき映画!
ライバル役のじゅんこが気になったあなたはバンド「グループ魂」を要チェック。現世のキラーK先生にロックを教えてもらいたいなら『スクール・オブ・ロック』(2003年)を見よう。(深)
1973年生まれ、佐賀県出身。95年、NUMBER GIRL結成。99年、「透明少女」でメジャー・デビュー。2002年解散後、翌年ZAZEN BOYSを結成。また、向井秀徳アコースティック&エレクトリックとしても活動中。09年、『少年メリケンサック』の映画音楽を手がけ、第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。10年、LEO今井と共にKIMONOSを結成。12年、ZAZEN BOYS 5thアルバム「すとーりーず」をリリースし、ミュージック・マガジン「ベストアルバム2012 ロック(日本)部門」にて1位に選ばれた。 著書に「厚岸のおかず」がある。映画音楽を手掛けた作品はほかに『真夜中の弥次さん喜多さん』(05年)、『中学生円山』(13年)、『ディストラクション・ベイビーズ』『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(共に16年)がある。
1981年生まれ、東京都出身。法政大学在学中に8mmフィルムで自主制作した短篇『極東のマンション』(2003年)『マリコ三十騎』(04年)が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で2年連続のグランプリを受賞。東京芸術大学大学院の修了作品『イエローキッド』(09年)は、高崎映画祭や日本映画プロフェッショナル大賞で新人監督賞など受賞多数。『NINIFUNI』(11年)はロカルノ国際映画祭で特別作品として選出され、『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)は同映画祭の最優秀新進監督賞を受賞した。
1971年生まれ、和歌山県出身。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「テレビブロス」「週刊文春」「週刊プレイボーイ」「メンズノンノ」「クイック・ジャパン」「歴史人」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。