第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
音楽家の新垣隆氏が告白した「ゴーストライター騒動」から、いまだに沈黙を続ける佐村河内守氏を追ったドキュメンタリー作品。カメラは自宅を訪れるメディア関係者や外国人ジャーナリストとのやりとりを映し、次第に佐村河内氏の素顔に迫っていく。『A』『A2』以来、森達也監督による15年ぶりの新作。
『FAKE』を観て、今まで抱いていた「佐村河内守」像が一気に崩れた、というのが正直な感想だ。沈黙を守り続ける佐村河内氏に対し、メディアは新垣氏側からの情報を私たち、世間に提供し続けた。それが本当かどうかということは誰にもわからない。しかし、ある視点から見た「真実」であることは確かなのだと思う。そう、私が『FAKE』を観て感じたことも、森達也監督によって描かれた一つの視点から見たことにしかすぎないのかもしれない。
その前提はありながらも、非常に面白い作品だった。メディアに露出しなかった佐村河内氏が、何を考え生きているのか、やはり見たかったのだ。森達也の「視点」はそんな僕らの欲求に答えるかのように、彼らしい問いを投げかける。ラスト12分間だけではなく、一つ一つのカットまで刮目して欲しい。この『FAKE』にアナタは一体何を感じるのか。「虚構」か「夫婦の愛」かそれとも――。それはぜひアナタ自身の目で感じて欲しい。(光)
1982年生まれ。ライター。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年からフリー。15年、「紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす」で、第25回「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞。16年、第9回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。近刊に「芸能人寛容論」がある。「cakes」「文學界」「VERY」「SPUR」「Quick Japan」「暮しの手帖」「SPA!」などで連載を持ち、インタヴュー、書籍構成なども手がけている。