第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
バンドのツアー中に見知らぬ町で取り残された中西(田中)は、町のボスのような存在・古賀(鈴木)に目をかけられて仕事を手伝うようになる。町の住民たちは酒を飲み交わし、外れにある川からさまよい出てくるものたちを追い返す。それが彼らの「仕事」だった。バーで働く絢(柴田)に惹かれつつ、謎の女・近藤さん(佐伯)にも翻弄され、中西はいつ終わるとも知れないロスタイムに身を委ねる。
映画を観ている瞬間、きっと私は少年のように目を輝かせていたと思う。用もなさそうなのに集まっては、昼間から飲んだくれて、よくわからないことをしている大人たち。バンドのツアーから置いてきぼりを食らった主人公は、不思議な世界のなかで夏休みのような時間を過ごす。彼らの過ごす時間は、自由でかっこよくて少し切ない。町をさまよい歩くものたちや、顔を見せない幽霊。正体のわからないものの存在と、だれかの不在。とても幸福な時間のように見えるのに、この不思議な世界には常に切なさが同居している。主人公がひと時を過ごしたその世界に思わず私も行ってみたくなる。この感じは、子どものころ男子がうらやましかった時の気持ちに少しだけ似ている気がする。届くはずのないものに、どうしようもなく憧れてしまうのだ。(尾)
遠い星からの旅の途中、宇宙船の不時着で地球にやってきたモコモコ星人。宇宙船が故障して帰れなくなってしまった彼らは、手始めに出会った人間を観察しはじめる。観察対象はその町のジョギングコースにある給水所に集まったランナーたち。仲間同士のように見えながら偶然同じジョギングコースを走っている他人同士でもあるランナー達のそれぞれの生活を異星人が見つめはじめる。
見えないものを思い浮かべるのが想像力だとして、ひとりでは見えなかったものがふたり以上になって見えるようになることを何と呼ぶのだろう――。『ジョギング渡り鳥』は本当の意味でキャストとスタッフがお互いを兼務しながら作られた映画だ。「マイクがスクリーンに映り込んでいて現実に引き戻されてしまった。」なんて言い方があるように普通の映画はスタッフが映り込むことを禁止するけれど、ここではそんな制約ないよといろんな立場の人が自由にそのまま存在することが許される。宇宙人だって平気で出てくる。そうやって生まれた多種多様の立場からあらゆる方向に向けられた無数の眼差しは、幾層にも重なって交差していくことで、一人孤独に前を向いて走るランナーたちを包み込むこの世界の温かさや優しさのように見えてくるのだ。一人スクリーンを見つめていた観客=私たちの視線が彼らの視線と交わったときにはもう一緒に歌いたくなってたまらなくなっているテーマ曲がこれまた本当に素晴らしい。(宮)
1967年生まれ、静岡県出身。8mm映画『にじ』(87年)がPFFアワード88にて審査員特別賞を受賞。脚本家・俳優としても活躍。監督作品として、『私は猫ストーカー』(2009年)が第31回ヨコハマ映画祭新人監督賞、第19回日プロ大賞新人監督賞&作品賞を受賞、『ゲゲゲの女房』(10年)が第25回高崎映画祭最優秀監督賞を受賞。そのほか東京国際映画祭正式出品作『楽隊のうさぎ』(13年)などがある。
1965年生まれ、東京都出身。ギタリスト、作曲家。「ループライン・スギモト・シリーズ」、宇波拓、大蔵雅彦との「室内楽コンサート」を千駄ヶ谷ループラインで、「杉本拓作曲シリーズ」を明大前キッド・アイラック・アート・ホールで企画。レーベル Slub Music 主宰。2007年より佳村萠(ヴォーカル)とのデュオ「さりとて」の活動も続けていて、これまでに2枚のCDを自主レーベル Saritote Disk から発売している。
メッセージ
『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』に出演しているヒロインのひとり、近藤さん役の佐伯美波さんに自分のCD を売りつけたら、「敷居高すぎてわけわからない」との感想を後で頂戴しました。まあ、私の本業は確かにそんな感じの音楽を作ることです。「実験音楽家」なので……。でもどういう巡り合わせなのか、「歌」を作る機会を与えられて、それをとても楽しんでます。仲間に入れてもらってとても嬉しい!
1970年生まれ、三重県出身。チャップリンが好きで8mmを撮り始める。早大シネマ研究会を経て助監督として多数の現場につく。97年『淫乱生保の女』で初監督。その後、本名と今西守名義でピンク映画の脚本を多数手がける。助監督も続け、阪本順治監督『亡国のイージス』(2005年)、佐々木昭一郎監督『ミンヨン倍音の法則』(14年)などにつく。16年、『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』を自主製作、今夏に一般公開。