第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
アイルランドの小さな町に住むエイリシュ(S・ローナン)は、姉の勧めでニューヨークへとやってくる。慣れない生活でホームシックに苦しむが、勉学とイタリア系アメリカ人トニー(E・コーエン)との出会いによって洗練された女性へと次第に成長していく。そこにアイルランドからの知らせが届く。
「人生は選択の連続である」とはよく言ったものだ。ニューヨーク・ブルックリンとアイルランド・エニスコーシー、遠い地の物語のようだが、本作で描かれているのはとても身近で、誰もが通る道の話だ。
出会いと別れ、仕事、自立、恋愛といった経験から成長したエイリシュが作中で選ぶ道は、二者択一には難しすぎる問題だ。居心地よく人懐っこく響くイタリア訛りと故郷の安らぎをまとったアイルランド訛りのどちらにも惹かれるのは当然だろう。その決断は驚きをもって突然に提示されるが、清々しく観るものに勇気を与えるものだった。
決断を迫られるエイリシュの逡巡と憂いを表現したシアーシャ・ローナンの演技は素晴らしく、覚悟を伴った彼女の表情は人としてかっこよく見えた。
最後に彼女は言う。すべての人に向けた言葉だ。
"You'll realize that this is where your life is."
最後に一つだけ。きのこ・たけのこ論争とビアンカ・フローラ論争に続く、世界三大論争に名乗りを上げたブルックリン・エニスコーシー論争で、みなさんはどちらを選ぶだろうか。(遠)
1952年のニューヨーク。クリスマスの近づくある日、キャロル(C・ブランシェット)とテレーズ(R・マーラ)は、娘へのプレゼントを求める客と店員として百貨店のおもちゃ売場で出会った。テレーズはキャロルのエレガントな魅力に憧れ、キャロルは若いテレーズがしまいかけていた夢に共感。離婚をめぐり夫と争っているキャロルからの誘いで、ふたりはクリスマス休暇に西へ旅に出るが……。
赤は、情熱と決意を感じさせ、痛みを受けとめる強さと愛情をもつ色だ。その色は、クリスマス・シーズンにふさわしいものだと思わせつつ現れて、物語の進展とともに、より深く強いイメージを伴うものになっていった。最後には「自分の気持ちに正直であるか」という刺激的な問いになり、私を包み込んだ。
キャロルは美しい。印象的なのは、自ら選択しようとする姿勢や、厳しい状況におかれても娘や周囲への優しさを感じさせる振る舞いだ。想いを秘めた彼女のしなやかさに心が動かされる。
そして、キャロルとの突然の出会いがテレーズの人生を変えた。テレーズは、当初は自らの気持ちの正体をよく理解していなかったはずだが、そのチャンスをつかんだのは彼女自身である。こうして、偶然は運命になった。
排他的な雰囲気が緊張感とともに世界を覆う昨今にあって、本作は洗練された素晴らしい愛を提示し、境界線を越えていく小さな勇気を私たちに与えてくれる。ときには私も格好よく赤を身に着けたいと思った。(渉)