第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
小規模ながらいまヨーロッパで最も脚光を浴びている映画祭の一つである「ブリィヴ・ヨーロッパ中編映画祭」特集プログラム。過去3年の同映画祭作品のなかから厳選した日本未公開5作品を2日に渡ってお届けします。特集2日目の本プログラムでは濱口竜介監督最新作『天国はまだ遠い』を東京初上映。またブリィヴ映画祭ディレクターらを招いた日仏インディペンデント映画についてのトークも実施します。
2004年に始まった同映画祭は、長編でも短編でもない「中編」(30〜60分)を対象にしているのが特徴。世界三大映画祭(カンヌ、ヴェネツィア、ベルリン)や、より先鋭的な作品を選出するロカルノ映画祭でも集まりにくい、ヴァラエティに富んだ新たな才能に出会える映画祭として注目されています。同映画祭出身の若手映画作家の躍進を評した「ブリィヴ世代」という言葉も生まれた。
アルテミス(F・バリ)の人生の一通過点。月の女神が現代社会に舞い降りた。美術学校の学生で、孤独で憂鬱なアルテミス、彼女の人生は、元気いっぱいの妖精カーリイ(N・ロゼ)との出会いで一変する。ほんのつかの間の友情を描いた物語。
本作の導入部分。カメラの前でナレーター役が語り、窓辺から顔を出すアルテミスが現れたところで物語は始まる。メタフィクション的な語りとスーパー8のモノクロ映像が、ヌーヴェル・ヴァーグの初々しさを感じさせる。また時々初期映画のようなコミカルさも併せ持つ。
アルテミスは、ちょっと内気で変わった女の子。ある日彼女の通う美術学校の食堂で、ブロンドヘアの快活な女の子カーリイと出会って、二人は親友になる。タイプの違う二人は、揃ってビーチへキャンプに出かける。ピンチの時には、魔法のペンダントの力で窮地を脱出。そして二人の旅の運命はいかに……。
「アルテミス」の名の通りギリシャ神話を緩やかに下敷きにしつつ、日本の魔法少女アニメの要素も取り入れて、現代的にカジュアルに仕上げられた女の子の友情物語。ムレやロジエ作品に通じる彼女たちの微笑ましいやり取りを見て、幸せな気持ちになれる作品である。(佐)
アルジェ南部のとある団地にはこの上のない無気力感が漂っていた。ジャバール(M・ラムダニ)とヤミーナ(S・マレム)は隣人でありながら友人ではない。男女のデートなんてありえなかったので、二人ともデートを夢見ることすらしなかった。数日の間に二人の目前で起きた小さくて自分たちとはまったく関わりのない殺人事件は一体何なのか。ともかくそれは二人の人生に一生消えない傷跡を残した。
倦怠と暴力が影を落とすアルジェ南部のうらぶれた街で、親や社会の抑圧を受けながら思春期を過ごす若者たち。本作は、前半のジャバールと後半のヤミーナのパートから成る。前半パート。フェンス越しにわずかに接触するもなかなか縮まらない二人の距離。ジャバールの前で白昼に突然起こる拳銃による殺人事件。その事件を捜査するのは、警察官であるヤミールの父親である。若者の集うパーティで、ジャバールは彼女を見つけて近づこうとする。後半パートでは、ヤミーナの側から同じ出来事が語られる。
二人の住む街は、二人が結びつくことを許さない。そこは吹きだまりのような街だが、風になびく雲や木々、川の流れが美しい。それらは街の外へと続き拡がる。彼らは大人になるにつれて外の世界の広さを知り求めるようになる。(佐)
三月は17歳で死んだ。それ以来、同級生である雄三(岡部)に取り憑いて現世に留まっている。ある日、三月の妹の五月(玄里)が雄三にインタビューを依頼してくる。亡くなった姉の関係者を取材して、姉に捧げるドキュメンタリーを作るのだという……。『ハッピーアワー』クラウドファンディング特典として企画された、濱口竜介監督最新短編。
天国という場所は、実在するというよりはむしろ残された人が喪失感を埋めるためのフィクションである。
五月の取材に対して雄三の話すことは、果たして本当なのか。その真偽もまた天国と同様に確かめることができない。雄三の映るカメラモニターを捉えつつ彼の話を聞く五月のリアクションを捉えた長回しショットが素晴らしい。カメラを通じた亡くなった姉との交流の欲望が伺える。続く彼と彼女の切り返しショットは、『なみのおと』シリーズや『ハッピーアワー』を通じてものにした濱口監督作品らしい緊張感が漂っていて目が離せない。彼と彼女を繋ぐ媒介役となる小川あんは、そのくりくりとした眼と真顔の演技で強い存在感を発揮している。
フィクションを通じて、カメラを通じて、わたしたちは何かを捉えようとしている。寄る辺ないわたしたちの日常を確かめようとして。天国はまだ遠い。(佐)
ブリィヴ映画祭ディレクター。10年間パリのシネマテーク・フランセーズで文化イベント主任秘書として活躍した後,2015年にヨーロッパの中編映画祭であるブリィヴ映画祭の理事となる。04年にカンヌのDirector’s Fortnightを主宰したフランス監督組合(SRF)が創設したブリィヴ映画祭は、もっぱら30分から60分の中編映画に焦点を当て,ヨーロッパのほかの映画祭同様に多数のプログラムを呼び物にしている。
監督・脚本家。『アルテミス、移り気なこころ』(2013年)のほかに『Petit lapin(原題)』(14年)『Les filles au Moyen Âge(原題)』(15年)がある。
1979年生まれ、岡山県出身。映像作品から雑誌・広告・Webメディアのプロデュースまで幅広く手掛け、主な作品に、濱口竜介監督『不気味なものの肌に触れる』(2013年)、『ハッピーアワー』(15年)、菊地健雄監督『マチビト 神楽坂とお酒のハナシ』(16年)がある。ミュージシャン、俳優としても活動し、出演作に『親密さ』(12年、濱口竜介監督)、『2045 Carnival Folklore』(13-14年、加藤直輝監督)、『シミラー バット ディファレント』(13年、染谷将太監督)、『岸辺の旅』(15年、黒沢清監督)などがある。