第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
現在86歳で精力的に作品制作を続ける巨匠ヴェッキアリ。彼は、ゴダールやシャブロルと同い年のヌーヴェル・ヴァーグ世代の作家である。ジャック・ドゥミの盟友で、ジャン・ユスターシュの初期作品をプロデュースし、1970年代には映画会社「ディアゴナル」を設立。ヌーヴェル・ヴァーグ以後のもうひとつのフランス映画史を形作ろうとしていた。最新作上映とマチュー・オルレアン氏のレクチャーを通じて、ヴェッキアリ作品の魅力に迫る。
幼少期そして青年時代を怠惰に過ごし、ローラン(P・セルヴォ)は自分の人生の進路を考え始める。ローランは、父のロドルフ(P・ヴェッキアリ)に愛憎相半ばする感情を抱いていた。二人はあまりにも感情的になりすぎるため、互いにその愛情を表現することができない。他にも近くに女性たちがいるにもかかわらず、ロドルフにはある一つの執着だけに囚われていた。それは初恋の女性マルグリット(C・ドヌーヴ)と再会することだった。
「ジャック・ドゥミに捧ぐ」――オープニングクレジットの終わりにさり気なく掲げられたその言葉の通り、ドゥミ作品の代名詞とでも言うべき「忘れられない初恋」が描かれる。初恋の美しい思い出は、心の奥で宝石のように輝き、ロドルフを魅惑し捕え続けながら、彼に生きる希望の光を与えている。
低予算の映画ながらキャストが異様に豪華。ドゥミの『シェルブールの雨傘』に主演したカトリーヌ・ドヌーヴのほか、『ママと娼婦』(ユスターシュ)のフランソワーズ・ルブランに『フレンチ・カンカン』(ルノワール)のフランソワーズ・アルヌール、そしてエディット・スコブにマチュー・アマルリックも出演している。
老齢のヴェッキアリ本人がお洒落に着飾って主演し、フランス映画の名女優たちと触れ合い、それぞれの老いを静かに受け止め人生を肯定する。静かな感動を呼ぶ、ヴェッキアリ監督の集大成的な作品である。2016年度カンヌ国際映画祭特別上映作品。(佐)
1930年生まれ、フランス・コルシカ島南部出身。53年パリの理工科学校を卒業し、「カイエ・デュ・シネマ」などで批評家として活躍。61年無声の長編映画『Les Petits Drames』を発表し、65年『Les Ruses du diable(悪魔の詭計)』で商業映画デビューを果たした。70年代に「ディアゴナル」社など2つの製作会社を設立。70年代後半から人材の育成にも注力し、ヴェッキアリ作品で共同脚本や助監督、製作主任などを経験させた後に、ジャン=クロード・ビエット、ジャン=クロード・ギゲ、マリー=クロード・トレユ、ノエル・シムソロ、クローディーヌ・ボリを映画監督としてデビューさせた。日本での商業公開は『薔薇のようなローザ』(85年)の1作のみだが、本国では監督・プロデューサーとしてゆるぎない地位を築き、20本近い長編作品を監督している。
シネマテーク・フランセーズの企画協力者で、「ジャック・ドゥミ展」や「アルモドバル展」「デニス・ホッパーとアメリカン・ニューシネマ展」などを担当している。映画批評家として「ポール・ヴェッキアリ、映画の家」(ロィユ社、2011年)を発表。