第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
香港に隣接する改革開放のモデル都市・深圳。その一角でネットカフェを経営する主人公の3歳の息子は、今日は離婚した母親(V・チャオ)と過ごす日だ。この日も夕方には家に帰ってきたがその後近所の子供と遊びに出かけたまま行方不明に。父親が一人息子を捜す必死の旅が始まる。再会できたのは3年後。その時、息子は……。
3歳の息子は3年後に「よその子」となって見つかった。この作品は中国で実際に起こった誘拐事件をもとに、誘拐された側の親子と誘拐した側の親を描いたもので、誘拐事件を通して今の中国社会の一端を垣間見ることができる。
そこには私たちと同じように普通に暮らす人々の喜びと悲しみ、子供への深い愛情がある。
その一方で、息子を捜す過程で立ちはだかるさまざまな現実は「拝金主義」と「モラルの欠如」が横行する中国社会そのものだ。しかし、それを否定し、そこに果敢に立ち向かう親たちが中国にも確実に存在することを忘れてはならない。不条理なことを許さない中国人だ。
中国の指導者、鄧小平さんは「豊かになれる者から豊かになれ」と言って経済成長の旗を振り続けた。確かに経済的な豊かさは手に入れたものの、そこには毎年20万人の子供が誘拐されるという現実が。「これがあなたの目指した中国ですか」と鄧小平さんに聞いてみたい。(昭)
1999年の中国の小さな炭坑の街。主人公の小学校教師(Z・タオ)は、幼なじみの炭坑夫と実業家との3人の友情を大切にしていた。そして、彼女が結婚相手に選んだのは実直そうな炭坑夫ではなく野心あふれる実業家だった。やがて息子を授かるが、5年後、10年後の姿を追うと、そこには……。
私が中国に頻繁に足を運んだのは90年代後半。改革開放の波が中国内陸部にも押し寄せどこも好景気に沸いていた。皆で大鍋を囲んで同じものを食べていた社会主義の時代から「豊かになれる者から豊かになれ」との号令のもと、中国社会が地響きを立てて大きく変わろうとしていた時期だった。友人同士が集まれば話題はお金儲けのことばかり。なかでも才覚があり共産党幹部にコネのある人間から豊かになっていったような気がする。
ところが先に豊かになった人のなかには、不正に蓄えた大金を抱えて海外に逃亡する人が急増していた。この映画の実業家もその一人。一人息子を連れてオーストラリアに脱出。故郷を捨て異国での暮らしぶりは決して幸せとはいえない。息子は中国語も満足に話せない。一方、母親は生まれ故郷に残ってガソリンスタンドなどを経営して一人で暮らす。一組の親子の四半世紀。豊かになった中国は、そして中国人はどこに行こうとしているのか。(昭)