第34回映画祭TAMA CINEMA FORUM
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1942年のジャワ島日本軍捕虜収容所。ヨノイ陸軍大尉(坂本)はイギリス人捕虜・セリアズ(D・ボウイ)の美しさに心を奪われてしまう。一方、粗暴なハラ軍曹(ビートたけし)はクリスマスに酒の勢いでセリアズと同じ捕虜のロレンス(T・コンティ)を釈放してしまう。激怒したヨノイが捕虜全員の整列を命じるが……。
冒頭から流れる「Merry Christmas Mr.Lawrence」で一気に惹き込まれる。坂本龍一がこの作品に参加する際に「役者だけでなく音楽もやらせてもらえるのなら」を出演の条件にしたのは有名な話だ。本作が初めて手掛けた映画音楽となり、その後『ラスト・エンペラー』でアカデミー賞作曲賞をアジア人で初受賞、「世界のサカモト」と呼ばれるようになっていった。
坂本は役者としてもスクリーンで稀有な存在感を発揮している。ヨノイとセリアズのキスシーンは、機材トラブルのせいで奇跡的にあのようなブレた映像になったという。ふたりの心の機微がよく伝わる、映画史に残る名シーンと言えるだろう。
この作品は何度か観てやっと理解できるものなのかもしれない。1度目は衝撃で内容に追いつけず、2度目以降でやっと意図するものが少しずつわかってくる。そして何度観ても新たな感動がある。是非、大きなスクリーンで鑑賞してほしい。(澤)
世界的音楽家・坂本龍一による最後のコンサート映画。坂本自身の選曲による全20曲が1日の始まりから終わりまでを感じさせる曲順で構成されているという。曲目は映画音楽、YMO時代、友人の追悼のために書かれたものなど多岐にわたる。録音は坂本が「日本で一番音が良い」と評したNHK509スタジオで8日間をかけて行われた。
モノクロームのコントラストが坂本龍一という音楽家の洗練を、そして同時にその身体に残された僅かな時間を否が応でも観客に意識させる。影の刻まれた細く、筋張った指がピアノの鍵盤を叩き、自身の呼吸とともに音を宙に舞わせるその様は、生命が音楽へと姿を変えるまさにその瞬間を目撃するかのようだ。
坂本の晩年の音楽制作の指標に「ロゴス」と「ピュシス」という概念がある。簡潔に表せば前者は言語的で人が意味や形式を規定したものを指し、後者は自然的なものを指す。坂本は自身の音楽をピュシスの方へと近づける試みを幾つも行ってきた。すると映画というカメラとマイクによる機械的な記録は自然的足りうるのかという疑問が浮かぶ。しかしその疑問は早計だ。映画はわれわれ観客の身体という自然物を通ることで、自然的なものへと回帰していくのだから。これは観客が、開かれた坂本龍一という存在をそれぞれに受け継ぐ、そんな経験なのかもしれない。(弦)
2008年12月にソロユニット“agraph”としてデビューアルバム「a day, phases」をリリース。11年中村弘二、フルカワミキ、田渕ひさ子とともにバンド“LAMA”を結成。12年以降は電気グルーヴのライブサポートメンバーとしても活動する。14年TVアニメ「ピンポン」ではじめて劇伴を担当。24年、劇伴作家としては10周年を迎える、同年アムステルダムで「チェンソーマン Live set」と銘打ち単独公演を大成功する。同年11月20日には牛尾憲輔名義としては初の日本での単独公演「牛尾憲輔 behind the dex」をリキッドルームにて実施する。24年後半も劇場映画山田尚子監督『きみの色』、TVシリーズアニメ「ダンダダン」「チ。」の音楽担当と海外でも人気のある話題作が続く。
思考家/批評家/文筆家。音楽レーベルHEADZ主宰。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。芸術文化のさまざまな分野で執筆などを行なっている。2024年4月に「「教授」と呼ばれた男―ー坂本龍一とその時代」(筑摩書房)を刊行。最新刊は「成熟の喪失 庵野秀明と〝父〟の崩壊」(朝日新書)。