第34回映画祭TAMA CINEMA FORUM
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「人生頑張ったって仕方がない。どこへ行こうが意味はない、どうせ全員死ぬんだから」そんなあみこ(春原)が恋に落ちたのは、同じく超ニヒリストながらサッカー部の人気者でもあるアオミくん(大下)。一生忘れられない魂の時間を共有したふたりは、愛だの恋だのつまらない概念を超越した完全運命共同体、現代日本のボニー&クライド、シド&ナンシーになるはずだったが……。
『あみこ』を劇場公開した2018年から6年を経て、山中瑶子監督は『ナミビアの砂漠』を発表した。『あみこ』を観て運命が変わったと語る河合優実を主演に迎えて。そして『ナミビアの砂漠』はシネフィルから普段映画を観ない層まで巻き込んで大ヒットする。これは日本映画界にとって間違いなく明るい話題である。
それでいて、山中瑶子監督が描き出す世界は明るいだけではない(だからこそ信用できる)。『あみこ』は初期衝動にあふれながら、どうしても作らずにはいられなかった強い思いに多くの人が共鳴し、それが世界にまで届いた。2018年当時、その「天才」っぷりに驚きながらもこの一作で映画をつくることを止めかねない、「刹那」を生きているひとの空気を感じた。「どうか生き抜いて欲しい」と思った。
その監督が同じ「刹那」を生きていた(当時の)高校生とあたらしい映画を作ったことが嬉しくてたまらない。(由)
人生の退屈さを感じ、何に対してもやる気が出ないカナ(河合)は、刺激を求めてクリエイターのハヤシ(金子)との仲を深めていく。平穏な同棲生活を過ごしてきた相手のホンダ(寛一郎)と別れ、カナとハヤシは同棲し始めた。しかし、二人が噛み合わなくなることが増え、ケンカも多くなりさらに暴力も生まれ、次第にカナの心は壊れてゆく。
山中瑶子監督の『あみこ』を観て、女優を目指すと宣言し、そしていつか監督の作品に出演したいという願望を手紙で監督に伝えた河合優実は、この度、山中監督の長編映画第1作『ナミビアの砂漠』の主演を務めた。これは2人の思いを重ね、互いが感じてきた本当のことを、覚悟を決めて作った傑作でもある。
本作の主人公カナは、今までにない、一見マイナス面も多く見える女性像、ヒロイン像である。平凡な生活を送っていたある日に、カナは新たな刺激に出会い、虚無な自分のすべてをそこに尽くした。しかし、事態が自分の望んでいない方向へ走っていくことにむしゃくしゃして、その不愉快を素直に表に出し、喧嘩や罵倒、暴力を振るうこととなる。先の見えない時代で生きている1人の女性がもがき、抗い、そして暴れる姿を真正面から描いている。カナは私たちの代わりにやってくれた。カナが起こした行動は、我々が心の底に求めているものを表出させてくれた。(徐)
1997年生まれ、長野県出身。19歳で撮影・初監督した『あみこ』(17年)がPFFアワード2017で観客賞を受賞。同作品は18年に第68回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に史上最年少で招待されたほか、香港国際映画祭やカナダのファンタジア映画祭など、各国の映画祭で上映され、話題を呼んだ。『ナミビアの砂漠』(24年)が第77回カンヌ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞を受賞。
2000年生まれ、東京都出身。19年にデビュー後、映画、ドラマ、CM、モデルなど多岐にわたり活躍。『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』(いずれも21年)の演技で、第95回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞ほか、国内映画賞を数多く受賞。22年に『PLAN75』『ちょっと思い出しただけ』『愛なのに』などで第14回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。24年は『四月になれば彼女は』『あんのこと』『ルックバック』『ナミビアの砂漠』が公開され、TVドラマ「不適切にもほどがある!」「RoOT / ルート」も話題を呼んだ。
作家、文筆家。単著に「薬を食う女たち」(河出書房新社)、共著に「本に出会ってしまった。」(ele-king books)、「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」(フィルムアート社)、「虐殺ソングブックremix」(河出書房新社)、「心が疲れたときに観る映画」(立東舎)など、文芸・映画を中心に多数執筆。