第34回映画祭TAMA CINEMA FORUM
永山公民館(多摩市公民館)
関戸公民館(多摩市公民館)
ゆみ子(江角)が12歳の時、祖母が失踪した。25歳になって、その祖母の生まれ変わりのように現れた郁夫(浅野)と結婚したが、その夫も突然死へと旅立った。愛する人を次々と失った記憶と引きとめることができなかった悔恨を胸に秘めるゆみ子は、奥能登の民雄(内藤)の元に嫁ぎ、新しい家族に囲まれて平穏な日々を送るが……。
自死は本人も哀れだが、残されたものにとっても答えのない問いで苦しむことになる残酷なものだ。この『幻の光』で映画監督デビューした是枝裕和は、宮本輝の原作を十分に映画化した。同じく本作で俳優デビューをした主人公・ゆみ子役の江角マキコは、夫の自死に耐える姿と、それを忘れられる一瞬は再婚した夫との肌のふれ合いの時しかないということを、抑えた演技で見事に表現した。
能登の夕暮れの海辺の道を進む葬列のシーンは、大自然のなかで人の生と死はその一部として美しいのだと映像で伝え、作品名である「幻の光」の意味は終盤に明かされる。苦しい問いから人を解放するのは、永い時の流れと能登の厳しい自然のなかで送る日常生活なのだとこの作品が教えてくれた。(勝)