第34回映画祭TAMA CINEMA FORUM
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姉を事故で亡くした小説家・槙生(新垣)は、姉の娘の朝(早瀬)に無神経な親族たちの態度に我慢ならず、朝を引き取ることに。朝と一緒に暮らすことに戸惑う不器用な槙生を、親友(夏帆)や元恋人(瀬戸)が支えていく。性格の違う槙生と朝は、理解し合えない寂しさのなか生活するうちに、家族とも異なるかけがえのない関係を築いていく。
「違国」という造語で伝えようとしたのは、家族であっても人はみな違う存在で、考え方も感じ方も違うのだから、安易に気持ちが分かるとか共感できることではない。しかし、その違いを認めたうえで寄り添ったり支え合ったりすることはできる。槙生は言う、言葉にできることはする。でも、できないことやしたくないことははっきりとできないと言う。それは私の領分だから。ぶっきらぼうでクールに見えるけどその距離感が良い。その二人の関係は槙生が「決してあなたを踏みにじらない」距離から、帰ってこない朝を外で待つシーン、相手がいない時に、相手を思い心配する、そして二人は近くなる。槙生は自分を持たない姉に責められ続けて、命がけで小説家への道を歩んできた確執を、実家に近い海辺のシーンで朝に話す。姉に責められた内容は、古い価値観の押し付けにすぎないことなのに。朝の新たな個の確立を予感させる。(勝)
ある日突然、合唱部部長の岡聡実(齋藤)はヤクザの成田狂児(綾野)にカラオケへ誘われ、歌の指導をすることになる。狂児は、組長が主催するカラオケ大会で最下位になった者が受ける罰ゲームを免れるため、歌が上手くなる必要があった。嫌々ながらも歌唱指導を行う聡実は、狂児との交流を通して自身の変声期の悩みと向き合う。
本作では、原作に描かれた、戸惑いながらもクールに振る舞う岡聡実と、狂気さに愛らしさを兼ね備える成田狂児の雰囲気を映像で忠実に表現している。岡聡実を演じた齋藤潤は、変声期という避けられない変化に悩む姿を見事に演じ、今後の活躍を期待したい俳優の1人である。また、成田狂児を演じた綾野剛の確かな演技力と本人の愛らしい人間性が狂児にも投影されている。
一方で、原作にはない「映画を見る部」の存在と合唱部員との交流を厚く描くことにより、本作に新たな価値を付与し、魅力を高めている。廃部寸前の「映画を見る部」の存在は、映画文化の魅力を映画鑑賞者である私たちに伝える。また、合唱部員の和田や女性部員たちを厚く描くことにより、聡実の変声期による戸惑いだけでなく、思春期の淡さを多面的に描く。
そして、本作の重要な曲であるX JAPANの「紅」が2人の思いに共鳴する。(昌)
2007年生まれ、神奈川県出身。19年にデビュー以降、「生理のおじさんとその娘」「トリリオンゲーム」(23年)「9ボーダー」(24年)ほか多数のTVドラマに出演し、映画『カラオケ行こ!』(24年)のオーディションを勝ち抜き、大役をつかんだ。その後『正欲』(23年)で磯村勇斗扮する佐々木佳道の中学生時代を演じ、映画デビュー。そのほか24年は『瞼の転校生』『からかい上手の高木さん』『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』に出演した。
2007年生まれ、千葉県出身。23年に、TVドラマ「ブラッシュアップライフ」で夏帆扮する門倉夏希の中学生時代を、「うちの弁護士は手がかかる」では平手友梨奈扮する天野杏の中学生時代を演じて注目を集める。CMやMV(SUPER BEAVER「決心」)にも出演。24年は、TVドラマでは朝の連続テレビ小説「虎に翼」や「からかい上手の高木さん」に出演する一方、映画では『違国日記』で新垣結衣とダブル主演を務め、『あのコはだぁれ?』でホラー作品に初出演した。
映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー。邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見などのMCを数多く担当し、心理学的な視点からも映画を解説・評論。「ぴあ」、web「GLOW」(宝島社)ほかでの映画評連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」での俳優対談番組、「めざまし8」「ひるおび」での映画コーナーなど、幅広いメディアで映画を紹介。著書に「愛の告白100選 映画のセリフでこころをチャージ」(KADOKAWA)など。2023年「女性記者映画賞」を発起人として設立。