第34回映画祭TAMA CINEMA FORUM
仕事も家庭生活も順調で何不自由なく日々を過ごしていた役所広司演じる中年男性が、電車からふと眺めた景色のなかにビルの窓際でたたずむ女性(草刈)を見つける。そこがダンス教室だと知り、下心交じりで戸を叩いたことで予期しなかった新しい世界が開いていくという導入なのだが、徳井優や田口浩正、渡辺えり子といった教室に集まる個性的な面々がダンスとともに織り上げていく人生模様がこの作品を豊かで快活なものにしている。
不純な動機で習い始めたダンスにのめり込み、努力して上達していく姿はスポーツものの少年漫画を彷彿とさせる。ラストのダンスパーティで窓際の女性への下心が憧憬の入り交じった感情となり、ダンスを通じて旅立つ相手の背中を後押しする様はまちがいなく内面的な成長を描いているため、この印象はさほど外れていないだろう。
人生の楽しみ方を教えてくれるこの人間讃歌は、国内のみならず世界的にも大ヒット作となってリチャード・ギア主演のリメイク版も製作されている。(理)
妻を亡くして一緒に暮らす息子(高良)との関係がギクシャクしている木こりの男(役所)の生活に突然入り込んできた映画撮影。なりゆきでロケーション探しや運転手、ゾンビのエキストラ、果てにはADの仕事を活き活きと引き受けるようになっていく。
小栗旬演じるいっぽうの主人公は、年季の入った助監督(古館)の後を存在感なく付いて歩いている新人監督で、ゾンビ映画の撮影を投げ出して逃げようとした際に木こりと関わるようになる。
木こりは新人監督に息子を重ね、新人監督は不器用だがまっすぐな木こりに感化され、というようにふたりは互いに影響を与えあっていくのだが、その経緯が面白く、特に一緒に海苔を食べながら将棋を打つシーンは印象的だ。
派手な展開や名台詞めいたものはあまりないものの、場面一つ一つで積み重ねられる人間関係がじわじわと染み込んでくる。クライマックスの雨の撮影シーンで描かれた、足踏みをするしかない時期も焦らず待ち、タイミングが巡ってきたら迷わず行動することの大切さがなおさら心に残った。(理)