第34回映画祭TAMA CINEMA FORUM
永山公民館(多摩市公民館)
関戸公民館(多摩市公民館)
奈良県南東部の山々に囲まれたある静かな集落。かつては商店や旅館が軒を並べ、登山客などで賑わったこの集落で、代々旅館を営む家に生まれた12歳のイヒカ(三宅)。数年前から父とは別居をしているが、母の咲(水川)は、父との結婚を機にこの旅館を義理の父・シゲ(堀田)と切り盛りしている。そんなある日、シゲが姿を消してしまう。旅館存続の危機が迫るなか、イヒカの家族に変化の時がやってくる。
舞台となった川上村へ訪れたくなった。山を覆う霧が幻想的でその美しさに心を奪われ、霧や川はゆっくりと確実に動いている時間を連想させる。霧に覆われた木々豊かなこの村は人がゆっくり留まることもあれば出ていくこともある。まるで淵のような存在である。土地の歴史の奥深さを感じた。村瀬監督は川上村に企画ロケ地が決定した2020年末より通い、人々と交流を深めて作品を丁寧に作り上げた。映画のなかで住民とプロの俳優が一緒に芝居をしているシーンがあるが、撮影の百々武さんが川上村の住人であることや俳優陣の雰囲気作りと協力もあって、この自然な芝居に繋がったという。地域とスタッフ・俳優陣がひとつになり作品を作り上げたことに、映画の意義のようなものを感じた。静かな展開だが、村瀬監督の映画への熱さを感じる。人間模様あふれるシーンや川上村の情景が今も心に残っている。(名島)
1997年生まれ、滋賀県出身。京都造形芸術大学在学時に制作した初監督作『忘れてくけど』を2019年カンヌ映画祭ショートフィルムコーナーに出品。卒業制作『ROLL』が、なら国際映画祭の学生部門で観客賞を受賞し、同映画祭の映画制作企画で『霧の淵』を監督し、商業映画デビューを果たす。本作はサンセバスチャン国際映画祭新人コンペ部門、釜山国際映画祭に正式出品。
1997年生まれ、京都府出身。俳優。京都造形芸術大学在学中に村瀬大智監督と出会い、監督の処女作『忘れてくけど』に出演。以降村瀬大智監督の全作品に出演。同監督作品『ROLL』に主演し第21回TAMA NEW WAVEに入選。なら国際映画祭2020学生部門で観客賞を受賞する。以降出演作に映画『霧の淵』『瑠璃とカラス』『ナミビアの砂漠』など。ほかに舞台、ドラマにも出演している。松竹エンタテインメント所属。
1977年生まれ、大阪府出身。写真家。日本の離島を北から南へと巡った作品を東京都写真美術館などで写真展開催。奈良県南部を記録した写真集「草葉の陰で眠る獣」2015年刊行。17年、奈良県川上村に移住。写真集「生々流転」を21年刊行。映画『霧の淵』(村瀬大智監督)撮影監督を担当し、第28回ソフィー国際映画祭(ブルガリア)で撮影監督賞受賞。