第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
2020年コロナ禍で青春期を奪われた高校生たち。茨城の亜紗(桜田)は失われた夏を取り戻すため、<スターキャッチコンテスト>開催を決意する。東京では孤独な中学生・真宙(黒川)が同級生の天音に誘われ、大会に関わることに。一方、長崎五島ではコロナの風評に苦悩する円華(中野)が空を見上げる。手づくり望遠鏡で星を探す全国の学生たちがオンラインで繋がり、心を通わせていく。
忘れていた違和感が思い出された。2020年、まだ5年しか経っていないのか。
私たちは絵空事と思っていた本物のパンデミックを体験した。『この夏の星を見る』。
すてきなタイトルに込められたあの夏のくやしさがまざまざと蘇(よみがえ)ってくる。しかし、若者たちは知力を振り絞り、自分たちの夏を作りあげていく。いつの時代も闇を切り裂いていくのは若い力だ。考えて考えて仲間を信じて、一本の細い糸をたぐり寄せていく。辻村深月の原作を読んで、この感動を実写で観たいと直(す)ぐに思ったが、反面この若者群像を担える役者たちがいるのか、とも思った。そして封切り初日に観たスクリーンには紛れもなくあの亜紗や真宙、円華たちが望遠鏡を覗いていた。
希望は暗闇でこそひかり輝く。(昇)
2005年生まれ、東京都出身。モデル、女優。モデルとして、広告や雑誌などで活動中。女優として、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品『PERFECT DAYS』(23年、監督:ヴィム・ヴェンダース)に出演し、おおさかシネマフェスティバル新人女優賞を受賞。24年にオリジナル配信作品「まだゆめをみていたい」、25年にTVドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」に出演。26年春に日本・フィリピン合作『この場所』の公開が控えている。
山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004(平成16)年に「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞してデビュー。11年「ツナグ」で吉川英治文学新人賞、12年「鍵のない夢を見る」で直木賞、18年「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞。ほかの作品に「ぼくのメジャースプーン」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「盲目的な恋と友情」「ハケンアニメ!」「傲慢と善良」「琥珀の夏」「闇祓」「この夏の星を見る」などがある。
兵庫県生まれ。映画解説者。「スティーヴン・スピルバーグ 映画の子」(KAWADEムック)「文藝別冊 クリストファー・ノーラン 増補新版」(河出書房新社)「森田芳光全映画」(リトルモア)などに映画評を寄稿。その他、WOWOW「映画工房」をはじめ、TV、ラジオ、雑誌、新聞、WEB、Podcastで映画解説を展開。さらに映画の枠を超えて、若年層の育成のため「偶然の学校」や「あしたメディア」でも活動中。