第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
愛媛・松山の三津東高校に通う村上悦子は、努力しても報われないと心を閉ざしていた。だが転入生・高橋梨衣奈の情熱に動かされ、幼なじみの佐伯姫らと共に廃部状態のボート部を再始動させる。はじめての大会で挫折を味わいながらも、悦子は再びオールを握り、「もっと上手くなりたい」と願う。その瞬間、5人の心はひとつになる。
同じ映画が世に二つとないのは道理だが、これほど他に類を見ない作品はそうはない。3DCGアニメーションも最近では珍しくなくなった。しかしながら、本作は日本の作品に多くみられるセルルックとも、海外の作品に多くみられるリアルルックとも異なる、櫻木優平監督の唯一無二の世界が表出されており、まず目を惹きつける。特異なのは造形だけではない。アニメでしばしば記号化された表現が用いられることは論を俟(ま)たないだろう。それはもちろん、浮世絵などに端を発する優れた表現技法ではある。ただ、それに頼りがちな側面がみられることもまた事実。翻って本作は極めて写実的な描写に徹している。加えて、特別な出来事が起こるわけでもない舞台設定と、傑出した才能を持つわけでもないキャラクターたちによる物語、これもまた昨今の本流から距離を置いている。監督自ら「『日常系』の奔(はし)り」と評した昭和の原作を令和の現代に換骨奪胎した手腕に脱帽。(章)
アニメ映画監督。多数の映像プロダクションを経て、『花とアリス殺人事件』(岩井俊二監督)、ジブリ美術館作品『毛虫のボロ』(宮﨑駿監督)でCGディレクターを担当。映画監督デビュー作『あした世界が終わるとしても』(2019年)で、アヌシー国際アニメーション映画祭にノミネートされ、国内外で注目を集める。最新作『がんばっていきまっしょい』(24年)は日本アカデミー賞 優秀アニメーション賞を受賞。