第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
正義の塊のようなボン(ドニー・イェン)は、上司から有力者の息子の事件調書書き直しを依頼されるも断り、それが原因で実施予定の大規模捜査から外される。なんとか場所を突き止めて向かった先には、上司と仲間たちの無惨な死が待っていた。捜査を進めていくうち浮上したのは、かつての同僚ンゴウ(ニコラス・ツェー)だった。
自分たちが間違ったことを絶対にしていないと断言できるはずはないが、証言によってはンゴウたちの未来も別のものになっていただろう。指示をした上司は保身に走り、信頼していた同僚は自らに厳しく、ンゴウたちにも厳しかった。彼らの復讐の先は、自分たちの人生を壊した警察へ容赦なく向けられる。ンゴウ役のニコラス・ツェーが、出世街道を歩んでいた時と、人生を狂わされたあとの2パターンを演じているが、迂闊(うかつ)な行動をして自分たちの足を引っ張る仲間や、かつての恋人までをも手にかけるほどの凄まじい闇への堕(お)ち方が見事で、正義側のドニー・イェン演じるボンと相対して見応えがある。全編呼吸困難になるほど怒涛(どとう)のアクションが展開されており、子ども相手のカーアクションには肝が冷え、隠れる場所がほぼ車しかない銃撃戦も見ものだ。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』に出演している3名が、サブキャストとして活躍しているのでお見逃しなく。(瀧)
80年代、香港へ密入国した陳洛軍(レイモンド・ラム)は、黒社会のルールに逆らったことで大ボス(サモ・ハン)が率いる組織に追われ、九龍城砦へ逃げ込む。そこで次第に住民たちに受け入れられ、仲間との友情を深めていくのだが、あることがきっかけで九龍城砦に大ボスが乗り込み、仲間と共に戦いに巻き込まれてしまう。
叉焼飯が食べたくなる作品だ。美味しそうなだけでなく、本編中、重要な役割を持った香港のローカルフード、叉焼飯。陳洛軍が九龍城砦へ逃げ込んだのは10月2日。龍捲風に叉焼飯を奢(おご)ってもらうのは、それから約2ヶ月後の12月5日。その間、洛軍は信一に紹介された仕事を複数掛け持ちし、ひたすら働いている様子を龍捲風らに見られているが、食事といえば光酥餅ばかり、睡眠はひさしの上という生活を続けていた。そんな彼がおそるおそる、そして味に驚きつつ叉焼飯をかっこむ姿を、龍捲風の背後で仕事をしながら笑顔で見守る信一の様子は、洛軍がようやく彼らの仲間に迎えられた場面として強い印象を残す。原作の話となるが、叉焼飯は映画以上に重要で、現在刊行されている「囲城」では特殊な作り方が披露され、来年刊行予定の「終章」にも、ある人物にとってかけがえのない料理として登場し、読む者の心を震わせるだろう。看完電影,不如去食叉燒飯。(瀧)
1988年生まれ、東京都出身。お笑いカルテット「ぼる塾」のメンバーで1児の母。今年『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の鑑賞をきっかけに香港映画の虜に。以降、約半年間で160本以上を鑑賞するほど香港映画漬けの日々を送っている。著書に「酒寄さんのぼる塾日記」「酒寄さんのぼる塾生活」「酒寄さんのぼる塾晴天!」(ヨシモトブックス)。Web連載も多数。
1971年生まれ、東京都出身。バラエティ番組制作や「映画秘宝」編集部員を経て、2000年より映画評論家として、雑誌、ウェブ、劇場パンフなどに評論・インタビューを寄稿。香港の地元紙「香港ポスト」では25年に亘り、カルチャー・コラムを担当したほか、ライターとして多岐に亘って活動。今年はオフィシャルライターを務めた『トワイライト・ウォリアーズ決戦!九龍城砦』の来日舞台挨拶MCを担当したほか、新文芸坐「香港映画セレクション」のアドバイザーなども務める。また、初プロデュース映画『翔んだタックル大旋風』(監督:小野峻志)が今冬公開。