第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
私は映画『ちはやふる』のシリーズが大好きだが、特に本作・上の句は大のお気に入りである。かるた部のみんなが歩む物語は、高校入学、かるた・仲間との出会い……。この「はじめて」に出会う時の「ときめき」と「きらめき」が溢れるほどたくさん詰まっている。それは私が、みんなが、きっと一度経験したことのある、少し懐かしくもあり、ここまで溢(あふ)れるほどではなくとも、今もなおたまに出会うことのある感覚だ。
私は、百人一首は知っていたが「競技かるた」は本作に出会うまで知らなかった。もはやスポーツであるこの種目に、千早役の広瀬すずさんが適任だったのも嬉しい。当時も彼女の「走り」が運動部の走り方で大好きだったので、運動神経の良さが発揮されていて気持ちが良い。千早はみればみるほど魅力的な人物で、放っておけない真っ直ぐさに巻き込まれることが心地良い。観客が感じられるぐらいなのだから、かるた部のみんなは、それはそれは鮮烈な存在だったであろう。
彼女と一緒なら、どんなことだって乗り越えられる気がする。(葉)
競技かるた部を創設しようと奮闘する千早と、それに応じる仲間たちの汗と涙を描いた「上の句」を受ける後編。
太一、肉まんくん、かなちゃん、机くんら瑞沢メンバーそれぞれの個性と絆の強さは、衰えるどころか魅力をいや増していくが、一方でそれまで千早のモチベーションの背景として佇(たたず)んでいた新にもスポットライトが当たるようになる。これが二部作の構成としてとても絶妙で、「上の句」では主観で見ていた瑞沢メンバーたちを外から眺める視点が追加され、作品に対する意識の深まりと盛り上がりを同時に実感できるようになる。
また、成り行きと勢いで千早が目指すことになるかるたクイーン・詩暢のキャラクターが効いている。シリアスな強さとユニークなセンスのバランスを持ちながら、チームではなく単独で頂点を目指す振る舞いは、青春映画として物語が持つテーマにもう一本の軸を立てることで登場人物それぞれのひたむきさや真っ直ぐさがあることに説得力を持たせている。(理)
シリーズを締めくくる一作のためシリアスに語ることが多く内容がボリュームたっぷりだが、コメディ面で瑞沢の新入部員コンビや新が集めた藤岡東メンバーが爽やかな味を出しつつ(特にクイーンを目指す第三の女・伊織が良い)、仲間やライバルとつながる、先人から引き継いだものを次につなげるといった百人一首の本質を踏まえた作品のテーマが強調されている。
先立つ二部作において、心の赴くまま突っ走る千早、純粋で真っ直ぐだからこそ壁の前で足踏みをする新を描き、最終章となる三作目ではいよいよ太一の出番が巡ってくる。新には劣等感と後ろめたさが入り交じった友情を抱き、千早には本心を隠しながら誰よりも手を貸す。そんな府中白波会の三人組で最も人のことが見えている反面、自分については正当な評価を持てていなかった太一が、仲間から離れて自分を活かす道を探る姿が個人的な一番の見所だ。
千早と詩暢のクイーン戦など、描かれていない部分はたくさんあるので、続編ドラマからの展開があることを期待したい。(理)
1980年生まれ、東京都出身。幼少期を海外で過ごし、帰国後は現場での経験を積みながら映画制作を独学。2006年『タイヨウのうた』で映画監督デビュー。16年より映画『ちはやふる』シリーズ三部作を脚本・監督。同作で第8回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞を受賞。最新作に映画『父と僕の終わらない歌』(25年)、連続ドラマ「ちはやふる ーめぐりー」など。
1980年生まれ、徳島県出身。映画プロデューサー。『桐島、部活やめるってよ』(2012年)のアシスタントプロデューサーを経て、『藁の楯』(13年)でプロデューサーデビュー。『22年目の告白-私が殺人犯です-』(17年)でエランドール賞プロデューサー奨励賞、『キングダム』(19年)で藤本賞奨励賞を受賞。主なプロデュース作品に『ちはやふる』シリーズ(16年、18年)、『キングダム』シリーズ(19年、22年、23年、24年)、『線は、僕を描く』(22年)、『愛にイナズマ』(23年)など。12月に『新解釈・幕末伝』、来年夏に『キングダム』シリーズ最新作の公開が控えている。