第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
朝鮮戦争に従軍した元自動車工ウォルト・コワルスキー(C・イーストウッド)は、妻を亡くし孤独に暮らしていた。隣家にモン族の少年タオ(B・バン)一家が引っ越してきたことで、ウォルトはタオと心を通わせるようになる。しかし、不良グループがタオを仲間に引き入れようとし、2人の関係に危機が訪れる。
クリント・イーストウッド作品史上、初めての出来事が起こり、『グラン・トリノ』は、静かにその幕を閉じます。この作品が内包する「変わらぬもの」「永遠の存在」といった記憶にも終わりを迎える瞬間が訪れます。しかし、イーストウッドの作品が伝えてきた「変わらない良き理想」や「人間としての誇り」は、次の世代へと受け継がれ、時代を超えて生き続けることでしょう。『グラン・トリノ』は、イーストウッド自身の人生やキャリアの集大成であり、同時に新たな時代への橋渡しとなる作品です。彼の映画を通じて、私たちは「終わり」と「始まり」が交錯する瞬間に立ち会い、変わりゆく世界のなかで何を大切にして生きていくべきかを改めて考えさせられました。(彰)
雨のなか、ジャスティン・ケンプ(N・ホルト)は、車を運転中に、何かを轢(ひ)いてしまった。車から降り、周りを確認したが何も見つからなかった。数日後、ジャスティンは、恋人を殺害した容疑で罪に問われた男の裁判で陪審員を務めることになる。しかし、思いもよらないかたちで彼自身が事件の当事者となり、被告を有罪にするか釈放するか、深刻なジレンマに陥ることになった。
映画俳優・監督としてのクリント・イーストウッド氏の険しく、豊かな映画人として生き方について考えてみる。TVの西部劇「ローハイド」に出演して人気を得るが、人気に陰りがみられる映画産業を去り、イタリアに渡り黒澤明監督『用心棒』のリメイク作品『荒野の用心棒』に出演する。その後、アメリカに戻り、ドン・シーゲル監督作品『ダーティ・ハリー』に出演し、大スターとしての地位を確固としたものとする。次に映画の演出に乗り出し、自身の映画製作会社「マルパソ・プロダクション」を設立する。初監督作品『恐怖のメロディ』を皮切りに多くの名作を制作。1992年『許されざる者』はアカデミー作品賞監督賞ほかを受賞して監督としての評価を得る。最新作『陪審員2番』は、2024年イーストウッド監督94歳の時に公開された作品。全く弛緩(しかん)することのないストーリー運びに、最高齢の映画制作者としての矜持(きょうじ)を感じました。(彰)