第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
ある南の島。ガジュマルの木に逃げ込んだ兵士二人は、敗戦に気づかず、2年間も孤独な戦争を続けた――。
人間のあらゆる心情を巧みに演じ分け、観る者の心に深く刻みつける山西惇が、再び本土出身の“上官”を演じる(2013年の初演から出演)。
注目の新キャスト・松下洸平は、柔らかく、おおらかな存在感で島出身の“新兵”に挑む。歌手・普天間かおりをガジュマルに棲みつく精霊“語る女”に抜擢。琉歌に乗せて島の風を吹き込む。
舞台いっぱいにセッティングされたガジュマルの大木を上り下りしながら進んでいく二人の兵士の会話劇と精霊の“語る女“。南の島に吹く湿度を帯びた熱い風や匂いさえ漂ってくるような世界に引き込まれます。
孤独な二人だけの軍隊の傍観者でいることに後ろめたささえ感じながら、時々二人が見せる滑稽な場面に客席からは笑いが起こります。これはこまつ座の「戦後“命”の三部作」の「父と暮(くら)せば」「母と暮せば」にも通じる井上ひさしの世界といえるでしょう。
戦争という愚かしい人間の仕業と、どんなことがあっても生き抜いていこうとするエネルギー。大きなスクリーンでその迫力を感じてください。(WB)
太平洋戦争末期、戦況が悪化の一途を辿(たど)る1945年。飛行場の占領を狙い、沖縄県伊江島に米軍が侵攻。激しい攻防戦の末に、島は壊滅的な状況に陥っていた。宮崎から派兵された少尉・山下一雄(堤)と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田)は、敵の銃撃に追い詰められ、大きなガジュマルの木の上に身を潜める。仲間の死体は増え続け、圧倒的な戦力の差を目の当たりにした山下は、援軍が来るまでその場で待機することを決断する。戦闘経験が豊富で国家を背負う厳格な上官・山下と、島から出たことがなくどこか呑気な新兵・安慶名は、話が嚙み合わないながらも、二人きりでじっと恐怖と飢えに耐え忍んでいた。やがて戦争は日本の敗戦をもって終結するが、そのことを知る術(すべ)もない二人の“孤独な戦争”は続いていく。極限の樹上生活のなかで、彼らが必死に戦い続けたものとは――。
2016年に鑑賞した、こまつ座の舞台が映画化されることを知り、とても興奮したのを覚えています。しかも監督・脚本は、2022年の本映画祭で上映した『ミラクルシティコザ』の平一紘さん。ウチナンチュ(沖縄生まれの人)が初めて描く沖縄戦を題材にした作品です。前回は本土復帰50年、今回は戦後80年という節目にTAMA映画賞 最優秀新進監督賞受賞という最高のかたちでこの作品を上映できて感無量です。沖縄に思いを寄せるヤマトンチュ(沖縄県外の人)として一人でも多くの人に沖縄で実際にあった出来事を知ってもらいたいです。(WB)
1989年生まれ、沖縄県出身。大学在学中に、沖縄県を拠点に活動する映画制作チーム「PROJECT9」を立ち上げ、多くの自主映画を制作。初長編作品である『アンボイナじゃ殺せない』(2014年)では、第15回TAMA NEW WAVE ある視点に入選。以降、3分以内の予告編を対象とする映像アワード「未完成映画予告編大賞(MI-CAN)」では、グランプリに輝き、劇場公開作品『ミラクルシティコザ』(22年)は、第41回ハワイ国際映画祭 Spotlight on Japan部門に出品。本年はほかに堤幸彦監督との共同監督作品『STEP OUT にーにーのニライカナイ』(25年)がある。
作家、劇作家の井上ひさしの三女として東京・柳橋に生まれる。御茶ノ水の文化学院高等部英語科卒。フランス留学後、スポーツニッポン新聞東京本社勤務。2009年4月こまつ座入社。同11月代表取締役社長就任。井上ひさしの遺志を継ぎ、13年、こまつ座新作・舞台「木の上の軍隊」を企画・上演。15年、自身が企画した映画『母と暮せば』(監督:山田洋次)が第39回日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞。22年、『長崎追想 父・井上ひさしへの旅』(監督:松村克弥)に出演。20年、第5回『澄和Futurist賞』、23年、岡山市民劇場賞プロデュース賞受賞など。