第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
オウム真理教教祖・松本智津夫氏の三女として生まれ、加害者家族という過酷な宿命を背負い続けた松本麗華。6年以上の密着取材から浮かび上がるのは、世間の視線と葛藤のなかで自らの人生を歩もうとする姿。隠れた被害者の苦悩と希望を描き出す渾身のドキュメンタリー。2025年EBS国際ドキュメンタリー映画祭(EIDF、韓国)にてスペシャルメンション(特別表彰))ほか受賞。
2019年の上映会のゲストとしてお越しいただいた睡蓮みどりさんがご登壇される阿佐ヶ谷ロフトで開催された「鈴木邦男生誕100年祭」に参加し、初めて松本麗華さんのお話を伺いました。あれから6年余りの時を経て、このたびTAMA映画祭で松本さんを題材としたドキュメンタリーを上映できることに、深い感慨を覚えます。
私たちは市民ボランティアとして、多摩市公民館などの社会教育施設を拠点に上映活動を行ってきました。上映後にゲストをお迎えし、その声を直接伺うことによって作品理解を深め、立場を越えた交流が生まれることを目指しています。
本作は重く辛い現実を突きつけますが、特に加害者家族である松本さんと、被害者家族である原田さんとの対話が印象的で、お二人の「真実の希求」を妨げるものこそ、私たちが当事者として正面から向き合うべき課題であると迫ってきます。監督と松本さんをお迎えし、「それでも普通に生きられる」社会について、ともに考えたいと思います。(LS)
10代から小型映画を制作し、早稲田大学大学院で映画学を専攻。民放キー局で事件・事故報道に従事した後、2005年よりフリーランスに。テレビ、映画、Webを通じて人間と社会の在り方を問い続けるドキュメンタリーを発表。『生き直したい』(17年、大阪ABCテレビ)で坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。近年は死刑制度をテーマにした映画制作に注力し、『望むのは死刑ですか 考え悩む“世論”』(15年)、『望むのは死刑ですか オウム“大執行”と私』(22年)を発表。後者は米国のThe Awareness Film FestivalでMerit Award of Awarenessを受賞。
松本智津夫の三女として生まれ、父は後に麻原彰晃を名乗り、オウム真理教の教祖となる。大学で心理学を学び、2015年に手記「止まった時計」を出版し、自らの体験を社会に公表。以降、実名で活動を続け、メディア出演や講演、執筆を通じて社会との対話を重ねている。その他の著書に「被害者家族と加害者家族 死刑をめぐる対話」(23年、共著)、「加害者家族として生きて」(25年)があり、個人としての歩みを発信し続けている。こころの談話室あかつき相談員。一般社団法人共にいきる理事。