第35回映画祭TAMA CINEMA FORUM
川端康成の人気小説の6度目の映画化。1作目は昭和8年、売り出し中の田中絹代主演で制作された(無声映画)。以後、美空ひばり、鰐淵晴子、吉永小百合、内藤洋子、そして山口百恵が踊子役を演じてスターへと羽ばたいた。個人的には、初代の田中絹代が初々しく清らかな魅力を放っていたと思う。
この6作目では、職業差別や貧困、病、死など負の描写が物語のなかに忍び込んでくる。時代の変化もあるが、山口百恵という、従来のアイドルとは異なる個性を持つスターを育て上げようとの意図があったのかもしれない。
いっぽう一高生を演じたのは、大日方伝、石浜朗、津川雅彦、高橋英樹、黒沢年男、三浦友和の6人。このうち石浜朗は、川端康成の若き日の憂鬱(ゆううつ)を感じさせて魅力的だった。
ちなみに、山口百恵の相手役はオーディションで選出されたが、最終選考に残ったのは2人で、1人は三浦友和、もう1人は演技経験のない現役東大生だったという。この東大生は、本作にワンカットだけアップで映ります。(三)
もし「少女学園映画」というジャンルがあってオールタイムベストテンが選ばれたら、本作は間違いなく選出されるだろう(もちろん上位に)。
魅力の1つは中原俊監督の空間造形で、天井から見おろすカットで始まり、以後カメラは自在に動き回り、パンをし、しかし安易にズームに頼らない。少女二人が写真を撮る場面ではカメラは横移動して、屋内にもう一人の少女が隠れていることを観客に教える。そればかりではない。少女二人は、自分からカメラに寄ってきてくれるのだ。
中原監督が7年後に撮った『Lie lie Lie』で、詐欺師の豊川悦司が「人の心は無花果(いちじく)か巾着のようだ」と語る場面がある。このときトヨエツは両手を合わせ「こうして少しだけ心の口を開くんだ」と指先を優しく開いてみせる。
『櫻の園』の少女たちも、芝居の開演を控えて心の無花果(あるいは巾着)が少し開いた。模範生も不良少女も詐欺師も、こうして生きる喜びを発見していく。少女たちだけではない。私たち観客の心も96分の間、ふんわりと開かれていた。(三)